正常な世界にて
ライフルの銃弾は、顔を覆う強化ガラスに直撃したけど、貫通まではしていない。だけどよく見ると、小さなヒビが見えるはずだ。やっぱりガラスはガラスで、金属の銃弾には勝てないということだね。このまま何発も直撃させれば、貫通させられるはず。つまり、対爆アーマー装備のブルを倒せるんだ!
ちょうど弾切れだったので、私はポケットから予備の弾を……。
……えっ? ポケットに弾が一発も無い。しまった、他の残りは軽トラに置いたままだ! 助手席の足元に箱ごと置いてきてしまった!
軽トラの周りには兵士だらけ。危険すぎて、とても取りに行けない……。さすがの坂本君でもお断りだろう
「森村! ライフルのが無いんなら、この弾でピストル使え!」
坂本君はそう言うと、小さな円筒状の物を投げてきた。いきなりのプレゼントにビックリしつつ、それを受け取る
それは、坂本君から渡されたピストルで使える銃弾らしい。5発分が1つに繋がっている感じの物で、さっきのグラウンドで手に入れた弾のようだ。
空のピストルをただ渡されただけなので、説明書は読んでないし、この銃はまだ撃ったことすら無い……。だけど、多勢に無勢の今、私が見学者に回るわけにはいかない!
スカートのポケットの奥から、ピストルを取り出す。死んだ署長の銃で、西部劇に登場しそうな古臭いデザインだけど、頑丈そうな雰囲気を漂わせている。
私は、受け取った弾をリロードすべく、ピストルのあちこちを急いで見回す。一番目立つボタンを、思い切って押す私。坂本君のせっかちさが移ったのかな?
ピストルの弾を詰める回転部分が、カチャリと左側へ飛び出てきた。弾を込める穴が五つ空いている! おおっ、見事正解だね!
小さな喜びと興奮を堪えつつ、弾五発セットをその穴にブスリと差し込む。そして、その部分を元の位置へ戻した。
「んわぁーーー!!」
順調なリロードに水を差すかの如く、大声が響く。
ゲートのすぐ目の前に、兵士が仁王立ちしていた。先陣を切る形で来たその男は、ドラゴンズのバッジを胸に付けている。自動小銃を両手に持ったまま、ボンネットに上がろうとする。当たり前の流れだけど、こっち側へ来るつもりだ。
私は、観た映画やドラマの記憶を頼りに、ピストルのリロードを素早く完了させてみた。確か、この鳥のくちばしみたいな部分を下げれば完了のはず……。
「んわぁーーー!!」
ボンネット上で大声をまた響かせる兵士。うるさく、ウザったい! 怒りと焦りの感情が一緒に急沸騰する勢いに身を任せ、私はそいつに発砲した。狙いを定めることなく、とにかくそいつに銃口を向けてだ。