正常な世界にて
いやいや、感心してる場合じゃない。20人ぐらいの兵士たちが、こちら目がけて突撃してくる。こっちは3人だけで、しかもアマチュアだ。
「これは降伏させてくれないね……」
残ったほうのゲート係が、ズボンからピストルを抜き出す。彼も銃を既に持っていたようだ。そのピストルは個性的な見た目をしている。
「これは伊藤さん手作りだよ。1発ずつしか撃てないけどね」
安全装置らしき部分をオフにしながら、彼はそう言った。きっと、時々話題になる3Dプリンタで作ったピストルなんだろう。手作り感満載だけど、貴重な飛び道具には違いない。
兵士たちは、無我夢中でこちらへ突撃してきている。ゲートまでの距離は50メートルも無い。全員で一斉に走っているからか、発砲は控えめだ。そのおかげで、私たちは物陰から応戦できる。私たち3人は、銃を構えてそれぞれ狙いをつけた。軍服は着てないけど、まるで塹壕の兵士だね。
今さらな話だけど、突撃してくる兵士たちは、陸上自衛隊の装備を身にまとう同じ日本人だ。しかし、現在は敵なんだ。
私たちは、突撃してくる兵士たち目がけて、銃弾を飛ばしていく。坂本君が自動小銃をマガジン1つ分撃ち終えると、数人の兵士が硬い路面に倒れていく。ゲート係の男が使う手作りピストルは、1発ずつ弾込めしなくちゃいけない仕様だったけど、威力や命中力は十分にあるようだ。
坂本君がリロードする間に、兵士たちは軽トラの陰に身を隠したり、路面に伏せたりする。さすがにこのまま突撃し続けるのは、危険だからね。しかし、こちらに接近する機会を、しっかりと伺っていた。普段のような奔放さは皆無だ。
そんな兵士たちの中に、坂本君から自動小銃を奪われたあの兵士を見つけられた。ヤツは銃の代わりに、ナイフを手にしている。元々真面目で、最後までやり終えないと気が済まない性格なんだろう。
突撃が一時停止した隙を突く形で、私はブルの顔部分に狙いを定める。強化ガラスの向こう側に、ブルのニヤニヤ顔が見えた。ブルは興奮しながら、軽機関銃に新しい銃弾ベルトを装着しているらしい……。おぞましさを感じつつ、私はライフルの引き金を引く。発砲による反動にも、少しずつ慣れてきた。
腕前の成長か、奇跡が起きたのか、銃弾は狙い通りの先に命中してくれた。ヘルメットの顔部分に直撃した途端、ブルの頭部がのけぞった。顔のニヤニヤは消え、今は苦々しさが浮かんでいる。
ざまあみろ! 発達障害者を舐めるな!