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正常な世界にて

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「ああっ、それはよかった! 避難所はどこも酷い有り様で、この子も私も落ち着けなくて……」
母親の顔に安堵が強く浮かぶ。昨日から積み上げた苦労の何割かが、これで報われたといった感じだ。
 自閉症という事は、私と同じく発達障害を持っているわけだ。しかし、この子は見た感じ、騒ぐ系の発達障害者(例えば坂本君)には見えない。その逆で、静かで落ち着いた雰囲気を漂わせている。とはいえ、母親の立場からすると、いろいろと苦労しているに違いない。

 ゲート係の男性二人も、だいぶほっとしているらしい。この様子なら、親子の保護に反対していないね。
「あのマンションの入口らへんに、伊藤という奴がいるはずなので、彼にワケを話してください。このコミュニティへ受け入れてくれるはずです」
「あ、ありがとうございます!」
いいとこ盗りされた気はするけど、母親と男の子が嬉しそうな表情を浮かべていたので、許してあげよう。

「森村、涙物の感動シーンはそれぐらいにして、早くこっちへ来ない? 銃声がなんか大きく聞こえてくるからさ?」
坂本君が言った。水を差す発言だけど、その通りだから文句は言えない。ブルたちが撃ち鳴らしていた、聞き覚えのある銃声が、確かに私の耳にも届いている……。


 私は再び、ボンネットに右足を上げる。踏み込んだ途端、ボンネットがボコンと鳴り、そこに凹みができた。もはやちょっとしたレベルだけど、これも普段できない経験だね。
「おい!!」
なんかジジイが後ろで叫んだけど、話は後でいいや。今度は向き直らない。
 私は無視し、ボンネット上をうつ伏せで進んでいく。手足を動かす度に音が鳴り、凹みができた。
「おい、話を聞かんか!!」
ジジイがまた叫んだ。今度は無視できない羽目に陥ってしまった。
 なにしろ、ジジイが私の両足を思い切り掴んできたからね……。ジジイが手を離さないので、私はボンネットでうつ伏せのままという、シュールな姿を晒している。子供の前だし、かなり恥ずかしいね……。
「離してよ!! 離せよ!!」
私は叫ぶが、ジジイは聞いてくれない。多分、耳に声は届いているはずなのにね……。
 今すぐ足をばたつかせて振り払い、ジジイの顔に蹴りを入れてやればいい話だ。履いているスカートはロングだけど、無様にパンチラしてもおかしくない……。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん