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正常な世界にて

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 人々の大半は、銃を抱えて進む私たちを見た途端に、その場からそそくさと離れていく。そりゃあ、二人の高校生が大きな銃を手に、堂々としているもんだからね……。ゲート係の男二人でさえ、私たちが持つライフルと自動小銃に少し驚いたぐらいだ。
 とはいえ、私と坂本君も、あのグラウンドで助けに入ったのだから、人々は感謝するべきだ。モヤモヤした気持ちがする。
 そして、親子とジジイだけがその場に残り、じっと私たちを見ている。度胸があるのか鈍感なのか……。

「おっ、無事だったんだ。おばさんが心配してたよ?」
ゲート係の男が、坂本君に言った。まだ日没前とはいえ、こんなご時世だから、心配されるのは当たり前だ。
「千種公園でさ、自衛隊の連中が乱射してる!」
「ああ、そうみたいだな。そこの連中が言ってるよ」
集まっていたのはやっぱり、逃げてきた避難者だ。ふと横を見ると、さっきの射撃練習中に見かけた、あの親子がいた。母親と男の子で、子供のズボンには土の汚れが薄ら付いている。
「追われててさ! こっちに来るかもしれない!」
「そりゃヤバイな! 早くこっちに来て、その銃でなんとかしてくれよ!」
ゲートのこっち側よりも向こう側のほうが、まだ安全な場所のはず。悪いけど、まだ残っている3人は、1秒でも早くここから立ち去るべきだ。
「悪いけど、この車を動かすのは疲れるからさ。ボンネットを乗り越えてよ」
端から端までをゲートと呼んでいるけど、肝心の門に当たる部分は、2台の改造された車が使われている。2台ともセダンで、道端で「拾った」車らしかった。このセンターガーデン住民の車じゃないから、ボンネットを土足で乗り越えちゃっても構わないんだろうね……。
「よっと!」
「おっ、カッコいいな!」
坂本君は躊躇することなく、華麗にさっと滑るやり方で、ボンネットを越えていく。アクション映画で見かけるアレだ。ぶっつけ本番で成功するやり方じゃないけど、どこかで練習する機会でもあったのかな?
 私は彼のように、ボンネットを華麗に乗り越えることはできそうにない。なので、岩か何かのように、土足で踏む形で越えるしかなかった。私はデブじゃないけど、ボンネットにはきっと凹みができちゃうだろう。
「すいません!」
ボンネットに右足を上げたその時、後ろから声をかけられた。振り返ると、あの母親が私を見ていた。彼女の右手には、男の子の左手がしっかりと握られている。格好がアレなので、私は足を地面に戻し、向き直った。
「私たちも中に入れてくれませんか」
彼女が言った。お馴染みのセリフだね。一度振り返ると、気まずそうな顔を浮かべる坂本君が見えた。私もきっと、あんな顔を浮かべているに違いない。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん