正常な世界にて
その大柄な兵士は、強烈な重厚感のあるアーマーで、身をすっぽり包み込んでいた。鋼鉄や強化ガラスなどの強固な素材が、贅沢に使われていることは、一目見ただけで把握できてしまう。あれは確か、爆弾処理で使われる特別なアーマーのはず。
つまり、すぐ近くで爆発が起きても耐えられるわけだ。それを着こんだ上で、軽機関銃を乱射しまくるとは……。ズルい組み合わせだね。
しかし、ここで降伏するわけにはいかない。私と坂本くんは、諦めずに撃ちまくる。たった二人分とはいえ、放った銃弾の一団が、重厚なアーマーに次々と衝突していく。的が大きいことは救いだった。
「フン! フン!」
虚しくも、銃弾はすべて跳ね返されてしまった。あのダークグレーのアーマーは、見た目通りの高い防御力を誇るらしい。小さな凹みすら見つけられない。頭部前面を覆う強化ガラスの向こう側に、兵士の得意気な笑顔が見えた……。ニタニタと笑う肉付きの良い顔は、ブルドックにだいぶ似ている。
リロードを終えた坂本君が、再び銃撃を喰らわせる中、その兵士はドシドシと歩き始めた。堂々と進み続ける姿は、力強いブルドーザーも連想させる。
ブルドーザーとブルドックか。あの兵士は幸運にも、ピッタリの役回りを任されたわけだね。愛着は湧かないけど、「ブル」という簡単なニックネームをつけてあげる。
とはいえ、今は自分のネーミングセンスに酔いしれる状況じゃない。私たちの居場所がバレてしまい、そのブルが接近してきているのだ。お返しとばかりに、軽機関銃からの銃弾もパラパラ飛んでくる。しかも、そのおまけとして、他の兵士たちも再登場を果たしていきた。切り札頼みというわけだね。
完全に一転して、私たちは不利な状況に陥る。ブルに対処できる切り札は、手持ちには存在しなかった。
「ブルには効いてないし、一旦下がろ?」
「……ブル? ああ、ここは転進しないといけないね」
思わず口ずさんだニックネームだけど、坂本君は理解してくれたらしい。危機的状況とはいえ、少しだけ嬉しくなった。
しゃがみながらの早歩きで、私と坂本君はその場から離れる。軍隊式の匍匐前進のほうが安全だけど、コンマ1秒でも早く逃げ出したい気持ちが優先した。案の定、すぐ頭上を銃弾がヒュンヒュンと通過していく。柵すら無い小さな駅のホームで、新幹線の通過を間近で感じるかのようだ。
銃弾が頭部を貫通した瞬間に死が訪れるという現実を、考えずにはいられない。幸いなことに、その強烈な恐怖心は、私の足を止めるのではなく、急がせるほうに作用してくれている。
恐怖で足が震え、動けなくなるよりは断然マシだけど、この分の疲労が後でドカッと来る気配は感じた……。