正常な世界にて
再びの発砲で、スコープ内の兵士たちは、またその場で警戒しなければならなくなった。うんざりした表情まで浮かべている。思うように行動できなくて、イライラしてるらしい。
やがて兵士たちは、その場で警戒し続けることがバカらしく感じたのか、グラウンドの片隅にある軍用トラック数台のほうへ移動していく。うまく狙い、運が良ければ、兵士の背中に命中させられたかもしれない。だけど、引き金を引く直前で、私の指は止まった。卑怯な撃ち方だからね。
元々自軍とはいえ、敵兵を逃げるまで追い込めたわけだ。私の中で、達成感が沸いてくる。この調子でいけば、アニメや映画で見かける、凄腕スナイパーになれるかな?
私がつい呑気な展開を考えているうちに、兵士たちはトラックの陰へぞろぞろと消えていく。しかし、トラックを運転して逃げるわけじゃないようだ。運転できないのかもしれないけど。
坂本君のほうへ目を向ける。ちょうど彼は、一通り漁り終えたところだった。彼は、戦利品を高々と持ち上げながら、私のほうへ戻ってくる。ズボンのポケットなんてパンパンだ。
スコープから目を外し、腕時計をふと見ると、グラウンド到着から1時間近くも経っていた。そういえば、日光がいつの間にか、白色から黄色に変わっている。
10分間ぐらいだと思っていた私は、時間の早過ぎる流れに、静かに驚く。時間の流れ方というのは、不思議な仕組みが組み込まれているんだろうね。
時間についての連想が始まったところで、タタタタタタッという銃声が鳴り響いてきた。考察に耽る時間的余裕は、まだお預けらしいね。銃声は、まだ何度も連続して聞こえてくる。
スコープに目を戻し、様子を探る私。もはや、自然な流れでスコープを覗くようになっていた。
大急ぎで戻ってくる坂本君の姿が、スコープの中でどんどん大きくなる。彼じゃなかったら、小さな悲鳴を上げているところだ……。
「面倒くさいヤツが来たぞ!」
目の前に戻ってきた彼が叫んだ。その声には、焦りが隠れずに浮かんでいる。彼に尋ねるまでもなく、すぐに理由が判明した。
トラックのそばに、軽機関銃を構えた兵士が立っている。さっきまでいなかった大柄な兵士で、あちらこちらに乱射し続けていた。私の頭上にも流れ弾が飛来し、木の横枝を叩き割る。千切れた枝や葉っぱが、地面にバラバラと落ちてきた。
とはいえ、軽機関銃の乱射には、つい昨日経験したばかりなので、あまり怖さを感じない。だけど、その大柄な兵士が身を包んでいるアーマーは、威圧的な恐怖感を与えてくれた……。