正常な世界にて
よっぽどの奇跡が起きたらしく、坂本君は無事に、避難者や銃弾の中の移動に成功した。彼は、元々自分の物であったかの如く、地面から自動小銃を拾い上げると、しっかりと構えた。銃口は、泣き続ける兵士の頭へ向いている……。
ところが、坂本君の表情がすぐに歪む。スコープ越しに見た仕草から、弾切れだとわかった。あの消防士がちっとも撃てなかった理由が、これで把握できた。
どうするのかを、私が考え始めるよりも前に、彼は行動を移してみせた。眼前の兵士を、銃の台尻で思い切り殴ったのだ……。いつもの事ながら、衝動的な行動を披露してくれる。後先は何も考えていないはずだけどね……。
殴打された兵士は、仰向けに倒れる。どうやら気絶したらしい。たかが高校生に気絶させられる兵士とはね……。
坂本君は、気絶した兵士の装備を漁り始める。予備の弾を探しているようだ。
ところが、他の兵士に気づかれたらしく、兵士たちは避難者への攻撃を止めて、坂本君のほうへ近寄っていく。気絶した兵士の装備を、坂本君が漁っている現場を見れば、誰でも彼が厄介な敵だと判断するはずだ……。しかし、彼自身は漁りに夢中で、迫りくる危機にまだ気づけていない。こんな状況で過集中かな?
私は、接近する兵士の一人に照準の先を合わせる。小さい頭部に合わせている余裕は無い。今は大きい胴体だ。
引き金を引く私。自分でも驚くぐらい、躊躇せずに発砲できた。これもきっと、衝動性による行動だろうね。
勇ましく放った銃弾は、目標の兵士に命中することなく、地面を跳ねていく。いきなり命中させられるとは思っていなかったけど、ガッカリ感はあった。
しかし、坂本君に近づいていた兵士たちを狼狽えさせ、彼自身には危機を知らせる事ができたようだ。彼は漁りを止め、ゲットしたばかりのマガジンを、自動小銃にセットし始めた。
危機が身近に迫る中、さっそく銃を使う気だ。アクション映画の主人公気取りで、兵士たちを一網打尽するつもりなのかな? 無謀極まりない……。
彼の卑しい行動を助けるわけじゃないけど、援護しないわけにはいかなかった。幸い、私の居場所は発見されていない。
ライフルのボルトをスライドさせ、次の弾を装填する。スライドの動作は重く感じたけど、その感覚が私に、銃弾の重みを教えてくれる。私は次々にこれからも、金属の小さな塊を勢いよく放つのだと……。