正常な世界にて
流れ弾が消防車に穴を空けていき、サイレンが鳴り止んだ。壊れて鳴り止む際の断末魔は、酷く無気味な音色に感じた……。
「やりやがったな!!」
消防士らしい仲間の男が、消防車の付属品である消火器を、兵士に力強く投げつける。砲丸投げのような、ワイルドなフォームだった。
消火器は、兵士の顔に見事命中し、彼は顔を押さえる。かなりの激痛らしく、自動小銃を落とし、その場にうずくまった。
「いいドロップアイテムじゃないか」
坂本君は双眼鏡を覗きつつ、羨ましそうな表情を浮かべている。残念ながら、彼はきっと、重い消火器をあんなフォームで投げつけることはできないと思う。
もちろん、自動小銃という強力な武器を、その消防士は見逃さなかった。消防の活動服に自動小銃というのは、あまり合わない姿だけど、贅沢は言えない。
しかし、その合わない姿ではなく、せっかくゲットした武器を使いこなせないほうが問題だった。彼は、自動小銃を構えつつも、発砲することができずにまごついている……。
「おいおい、使えないなら拾うなよ。ボクによこせ」
坂本君が呟く。じれったい気持ちなのは、私も同じだ。
そばにいた仲間二人(警官姿)は、ピストルで他の兵士たちに発砲しつつ、消防士にアドバイスを飛ばしている。しかし、それでもなかなか解決しないらしい……。確かに、坂本君に渡したほうがマシだろうね。
そんな公務員3人組に、兵士たちは反撃の一斉射撃を喰らわせた……。警官からの銃撃で負傷している兵士まで、血を流しながら発砲している。よっぽど忠誠心が強いんだね。
しかし、今の彼らは一体、何に忠誠を誓っているんだろう? 蜂の巣にされた4人の死を見届けながら、ふと考えた。
「ちょっと行ってくるから、援護よろしく!」
しかし、考える時間的余裕は貰えなかった。坂本君が、あの自動小銃をゲットすべく、グラウンドへ駆け出したのだ……。
兵士たちは、避難者への銃撃を再開させている。死んだ4人が時間を稼いでくれたおかげで、多くの避難者が逃げられたものの、まだ残っている人々は大勢いた。危険極まりない行動だけど、坂本君の無謀さは、今に始まったことじゃない。私が、スコープを覗き、彼の姿を追う。
必死に逃げる避難者や、飛んでくる銃弾の狭い隙間をかいくぐる形で、坂本君は走り抜けていく。カッコいいけど、目的は火事場泥棒同然だ……。
消火器をぶつけられた兵士のほうを見る。なんと彼は、顔を押さえながら、わんわんと泣いていた……。かなりの痛みらしいけど、情けない兵士だね。まあ、自動小銃を取り戻して、それをゲットし損なった坂本君を、蜂の巣にしてしまう展開よりかは、確実にマシだけど。