正常な世界にて
「とまれよ!! とまれったらもう!!」
兵士たちは叫びつつ、自動小銃を次々に撃ち始めた。消防車に何発か命中し、フロントガラスにヒビが走っていく。しかし、消防車は走行を止めず、危険を感じた避難者たちが、囲い内の反対側へ逃げていった。
鉄条網に消防車が衝突し、耳障りな金属音がキンキンと鳴る。針金の束を強く握りしめるような高い音だ。大人の腰の高さまであった鉄条網は、地面に押し潰されていく。
その際、一緒に跳ね飛ばされた兵士が二人いた。どちらもきっと、迫り来る大きな車体に、足がすくんでいたのかもね。一人は痛がりながらも起き上がれたけど、もう一人は地面に倒れたまま動かない。こういう場合は、名誉の戦死扱いになるのかな?
そして、勢いよく衝突した消防車は、その場で停車している。大きなタイヤには、壊れた鉄条網がバサバサと絡みついていた。これではもう走れない。だけどこれで、避難者たちの脱出路ができたわけだ! 潰れて地を這う鉄条網を、さっさと踏み越えればいい。
「出よう出よう!!」
「早く逃げろ〜!!」
一人、また一人と、避難者が逃げていく。数人が逃げたところで、ようやく他の人々も逃げ始めてくれた。
「ああ、もう! ヒーローになるチャンスを奪いやがったよ!」
坂本君が悔しそうに言う。欲張ったせいかもね。
「このやろ〜!!」
「にげるな〜!!」
兵士たちは無論、避難者たちを黙って見送らない。ヤツらは、自動小銃を必死に撃ちまくった。しかし、頭がすっかりパニックらしく、銃弾はさまざまな方向へ飛んでいく……。私たちのそばの木にも着弾し、細かい木片が舞った。
そんな乱射でも、避難者が次々に撃たれていく。地味に苦しい具合の弾幕を張られている。このままだと、大半の避難者が、体のどこかを撃たれてしまいそうだ。昨夜の酷い救急体制を考えれば、たとえ急所じゃなくても、致命傷になりえる……。
「撃つな!! おとなしくしろ!!」
消防車から、屈強な男が4人降りてきた。うち一人はドライバーらしく、腕から血を流している。そして、全員が、消防や警察の制服を着ていた。名古屋自治政府の生き残りかもしれないね。
彼らは、近くで乱射を続ける兵士を取り押さえようとした。
「じゃまするな〜!!」
だが、その兵士はやられまいと発砲し、ドライバーの男が蜂の巣にされてしまう……。今度は致命傷だった。