正常な世界にて
坂本君に手招きされ、私もコンビニに入った。床で倒れたままの外人が、私をじっと見ている気がする。誰が見てもわかるほど、死んでいるに関わらずだ……。
「うまくやったね! 狙撃の才能があるんじゃないの!?」
「いや、そんなんじゃないよ」
その男の頭を狙って撃ったわけじゃない。しかし、坂本君は嬉しそうだ。
「ううっ」
ほぼ事故とはいえ、私は人を撃ち殺してしまった……。無邪気に嬉しそうな坂本君のせいもあり、強烈な罪悪感と気持ち悪さが襲いかかる。ちょっと耐えられなくなり、私はその場にしゃがみこんだ。
「そ、そんなにキツイ?」
さすがに坂本君も、私の状況を察してくれた。彼はそっと、私からライフルを回収し、背中に隠す。
「頭なんて狙ってない! 頭なんて狙ってない!」
私は正直に何度も告げた。狙ったのは足元だし、うっかりミスで発砲してしまったぐらいだ。ありきたりなセリフだけど、殺すつもりは無かった……。
坂本君は気まずそうな表情を浮かべている。銃の腕前があると、誤解させて悪いね。
「……そうだったんだ。じゃあ、後で練習しよう? そうすれば、思い通りに撃てるはずだからさ?」
彼はいつも通り前向きだけど、私は銃に一切触りたくない気分にまで落ち込んでいる。
だけど、そうはいかないらしい。射撃や人殺しに慣れるしかないわけだね……。
悲しい気分の中、コンビニで物資を黙々と集める私。坂本君は、日用品は自分に任せろと言ってくれた。なにしろ、清潔なウェットティッシュなどが並ぶ日用品コーナーの床には、死んだ外人が転がっている……。
「砂糖がこんなに?」
私は悲しい気持ちを少しでも和らげようと、声を発する。独り言に近い小声だけど、坂本君はちゃんと反応してくれた。
メモには「砂糖はあるだけでいい」と書かれているが、店に残っている砂糖すべてだと、けっこうな量になる。甘ったるいスイーツを作る予定があるのかな?
「詳しくは知らないけど、爆弾の材料になるらしいよ」
「ええっ、そうなんだ……。爆発したら、甘い匂いが漂いそうだね」
肥料爆弾じゃなくて、今度は砂糖爆弾かな? 呑気な話だけど、今は気が紛れる。