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正常な世界にて

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 坂本君は、そんなイメージを私で覆したいのか、諦める気は無いらしい。彼は車内のバッグから、分厚めの本を取り出した。
「あのジジイ、説明書も用意してくれてたんだよ? それに、あのコンビニに向かって撃つだけでいいからさ。まあ、ボクには気をつけてほしいけど」
彼はそう言うと、ライフルの説明書を開き、銃身にかけた。薄くないそれのせいで、重さをさらに感じる。
「……わかったよ」
自信はあまり持てないけど、思い切ってチャレンジしてみることにした。彼がこう言うんだから仕方ない。物資調達のためでもある。


 私が軽トラの荷台上で、援護の構えができたこと(自分なりにだが)を確認すると、坂本君はスタスタとコンビニへ歩いていった。説明書は、まだ初歩の初歩までしか読んでいない……。不安が浮かぶ中、ライフルのスコープを覗いている。
 店内では相変わらず、宴が繰り広げられているままだけど、坂本君は平然としている。あえての演技かもしれないけど、普段のコンビニ客みたいな軽い足取りでだ。
 店の自動ドアが開き、いつものチャイムがここまで聞こえてきた。その途端、宴は急停止する。「いらっしゃいませ」という店員の声も聞こえてこない。店の連中は制服姿も含め、ポカンとした表情で、坂本君に視線を向ける。
 ……やっぱり、コンビニにいた連中は皆、日本人じゃないらしい。顔つきからして、アジア人(日本人は除く)か南米人だろう。自動ドアが閉まるまで、片言の日本語が次々に聞こえてきた。「出ていけ」とか、今までは連中側が言われていた言葉だ……。少なくとも、坂本君の来訪を喜んでいないのは確実だね。
 外人(今は国そのものが存在しないはず)の連中は、あのコンビニで寝泊まりすることに決めたらしい。悪くない考えだけど、普通の日本人からすると、悪い考えにしか思えないはずだ。近くの避難所へ行けばいいのに。

 坂本君は、外人たちと口論をさっそく始めている。こんな悲惨な状況じゃなければ、異文化交流の一環になったかもしれない……。とはいえ、今は非常時だから、あの外人たちには出て行ってもらうしかない。アメリカ第一主義じゃなくて、日本第一主義だね。いや、名古屋第一主義のほうが、しっくりくるかな?
 口論は続き、外人たちが坂本君を取り囲む。どうやら「対話と圧力」の対話は、早くも消失したらしい。圧力のスタートというわけだ……。
「撃つしかないのかな?」
圧力には圧力だ。仕方ないね。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん