正常な世界にて
この少し高級な住宅街にとっての幸運は、暴走系トラックの通過が1台だけで済んだ事だ。食事を楽しむカラスたちが大量発生していて、その糞害は不運だろうけどね……。
トラックは猛スピードだったこともあり、私たちの存在には気づかなかったようだ。これは幸運だね。
「人をたくさん乗せてたみたいだよ?」
ライフルを構えつつ、様子を伺っていた坂本君が言った。撃ち合いはお預けになったようだ。さすがに、一般人を輸送中のトラックを撃つのはマズイからね。
「避難所へ行くんじゃない?」
「……そうだといいけどね」
坂本君の予想はきっと、悪い類のものなんだろう。嫌だな、またまた的中しそうだ……。人の事は言えないけど、彼の悪い予想は、よく当たるからねホント。
私と坂本君は、元々任されていた仕事に移った。簡単な物資調達で、コンビニへ行けば手に入る物と量だ。もう昼過ぎなので、心配してるかもしれないし、お腹が空いた。コンビニなら幸い、名古屋市内に潰れ合うほど、あちこちにある。
ところが、坂本君は、わざわざ銃の練習になるようなコンビニを選び出してくれた……。私たちは、そのコンビニから通りを挟んだ向かい側にいる。
彼が選んだコンビニは、大変盛況な御様子だった。通常営業でもなく、略奪されている最中だからでもない。なぜなら、店員その他数人が、店内で宴をやっているからだ……。
しかも全員、日本人じゃない見た目をしている。きっと、この騒ぎに便乗して、バカ騒ぎしてる類だろう。
「これからあのコンビニを、名古屋人の手に取り戻してくるから、これで援護してよ」
「ええっ?」
坂本くんが、あのライフルを手渡してきた。ううっ、見た目通り重い……。
「いやいや、私には無理だよ」
ライフルを返そうとしたけど、彼は首を横に振るだけだった。
「練習だよ、練習。確かに、女の子には少し重い銃だけど、車の荷台を使えば、マシになるはずさ」
彼は荷台の低い壁をコンコンと叩く。なるほど、銃身の支えとしては使えそうだね。……だけど、問題は重さだけじゃない。
「銃なんて一度も撃ったことが無いんだよ?」
一番の問題はそこだ。ゲーセンのガンコンや、子供の水鉄砲ぐらいしか撃ったことが無い。今時も一昔前も、女子高生はみんな、そのはずだ……。