正常な世界にて
「お前ら、そこで止まれ!!」
警官は、体の向きを反転させると這いずり、銃器保管室の中へ戻った。
「ヤバい! 走るぞ!」
坂本君はそう言うと、私の手を強く引きながら、廊下を駆け出した。手を引かれつつ走る私の顔に、死臭に引き寄せられたハエが何度か衝突する。死肉に舞っている分、普段のハエよりもおぞましい……。
だけど今は、ハエの衝突に小さな悲鳴すら上げている場合じゃない。警官が銃器保管室へ戻ったのは、ショットガンを再び構えるために決まっていた……。
今回ばかりは、私と坂本君の予想が的中する。廊下を必死に走り、署内最初の部屋へ駆け込んだ次の瞬間の事だ。重い響きが持つ銃声が、後ろから盛大に鳴り響いたからね……。