正常な世界にて
入っていた書類すべてを、金庫の外へ引っ張り出した坂本君。彼は、書類を乱暴にめくり、目的の書類を探している。無用な書類が、次々に床へ散らばっていく。割れた窓から入り込んだ風が、壁際までピラピラと飛ばしていった。
お目当の書類じゃないにしても、丁寧に扱うべきだと思う……。金庫にしまわれていたぐらいだから、どれも重要な書類には違いない。覚えていたら、後で拾っておくことに決めた。
後にした理由は、署長のノートに、気になる内容がチラホラと見受けられたからだ。特に気になったのは、昨日のリセット宣言から起きた出来事の走り書きだ。
『政府から重大発表あり。混乱は必須』
『管内にて、事件が多発。非番に出動命令』
『巡査5人、パトロール中に行方不明。1時間以上応答せず』
『本部へ応援要請。折り返し待ち』
『避難者パンク。応援ダメ』
『署へ発砲あり。銃器使用を検討』
『謎の集団による、激しい発砲。警官と避難者に死傷者多数。救急不通』
『玄関爆発、孤立無援』
読みづらくて簡略化された文章だけど、ここがこうなるまでの経緯が、少しでもわかっただけでも収穫だ。
どうやら、かなり厄介な連中に襲われたらしい。銃や爆弾を使いこなし、都会の警察署を陥落させるぐらいの強さを持つ連中だ。あの坂本君んちは、本当に安全なのかな? 不安になり、心臓の鼓動が早まるのを感じる。
「森村? 森村?」
ふと顔を横に向けると、坂本君がすぐそこに立っていた。無様に驚いてしまう私……。
「リストを見つけたよ。森村は何か見つけたの? それはさっきのノートだけど?」
「うん、このノートだけで十分。書ける分がまだたくさんあるからね」
それに、役立つ部分がまだあるかもしれない。
「そう? 高級なノートには見えないけど?」
「十分だってば。それより、もう出よう?」
ここを襲った連中が、再び来訪しない保証は無い。もしかすると、あの銃器保管室を目的に、一旦退却しているだけかもしれない。
「うん、そうしよう。誰かに先を越されちゃうと面倒だしね」
彼はそう言うと、手に持つ書類をバチッと軽く叩いた。書類の表紙には、『愛知県内銃器所持者リスト』と書かれていて、数枚分あった。愛知県警本部長の印まで押されている。