正常な世界にて
その金庫は、簡単に見つけられた。高校生の私でも発見できたぐらい、わかりやすい場所にだ……。
感心できたのは、金庫は壁に埋め込むタイプで、持ち運べる物じゃない点だ。床から30センチ以内に高さに抑えられている点も、見つかりにくさをアップさせているね。
それを、さらに見つかりにくくしたかったのか、背の低い観葉植物で視線をガードさせていた。しかし、それだけをポツンと置いていたから、返って目立っていたのだ……。私が金庫を発見できたのも、そのおかげだった。
「あったよ!」
坂本君に呼びかけた私。彼の小さなノートを読んでいる。
「ああ、うん。わかった」
彼はそれだけ言うと、ノートを机上へポイッと放り出した。
「番号は0806。それって回して開ける鍵?」
「……ううん、電卓みたいなタイプ」
テンキー式というやつだね。ダイアル式だと、左右に回す順番と回数があるから、開錠までメンドイはずだ。
「じゃあお願い。0806だよ。その数字は、ここで死んでる署長のカミさんの誕生日でさ、ノートに書いてあった」
机上を指さす坂本君。その机の反対側では、署長が相変わらず死んでいる。残念だけど、彼の奥さんは未亡人になったわけだね。彼女がまだ生きていればの話だけど……。
とりあえず、坂本君に言われた番号を、金庫のテンキーに入力していく。ポチポチ押し終わると同時に、金庫のロックがガチャリと外れた。私は扉をゆっくり開ける。罪悪感が今さら湧いてくると同時に、ワクワク感も感じてきた。RPGで、宝箱を開ける冒険者もこういう感覚なのかな?
宝箱、いや金庫の中身は、書類の山だった。金品は一片も見当たらない。まあ、ここは警察署内だから当たり前か。
スラスラとは読めない類の、難しい文章が並んでいる書類ばかりだ。どれも大事な機密書類であることは理解できる。この中に、坂本君が探し求める、銃器所持者リストがあるんだね。
「ボクが探すから、森村は待ってて。署長が何か持ってるかもよ? ボクはこれを頂いちゃった」
坂本君の左手には、腕時計が2つ巻かれていた……。その2つ目の出所について、詮索する気は起きなかった。すっかり驚くようなことじゃなくなっているのだ。
坂本君とバトンタッチする形で、私は金庫の前から離れた。私も何か頂いていこう。ただし、生活に必要な物だけだ。