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正常な世界にて

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 坂本君は、開けっ放しで並ぶロッカーを見回した後、
「なぜそこまで!? ここの銃を独り占めしたいだけじゃないの!?」
彼はそう言ったものの、私は言い過ぎで失礼だと感じた。それに武器がたくさんあっても、警官のケガを見れば、自衛しかできないのは明白じゃないか……。
「な、何を言ってるんだ!?」
警官は激怒しつつも、戸惑いを隠せていない。独り占めを疑われるなんて、考えてもいなかったらしい。
 警官は、坂本君のリュックを強く引っ張り、彼を私の前まで引き戻す。その勢いで、坂本君は転びかけたぐらいだ。両足をケガしているのに、タフな警官だね。
「わかったぞ! お前らは、避難じゃなくて、銃を盗みに来たんだな!?」
うん、正解だ。簡単にたどり着ける答えだけど。

 相手は一人で、こっちは二人だ。酷い単純計算だけど、こっちは2倍の人数なのだ。しかし、向こうはショットガン装備の警官だ。そこで座ったまま、私たちを撃ち殺すことだって不可能じゃない。 まだ撃たれていないのは、私たちが非武装な子供だからだ。坂本君はピストル装備だけど、警官に気づかれていないから、二人とも非武装という事でいい。
「出ていけ!! 署から早く出ていけ!!」
警官が強く怒鳴った。しかし、その拍子に、足のケガに痛みが走ったらしく、顔を歪ませていた。
「病院まで運んでやろうか? 銃や弾と引き換え」
「いいから! さっさと出ていけ!」
追い払う仕草を見せた警官。そうとうの痛みだろうね。だけど、交渉もダメというなら、どうしようも無い。
 私たちは、銃器保管室からそそくさと出ていくしかなかった。部屋を出た後、せめてものの嫌がらせのつもりなのか、坂本君が乱暴にドアを閉め切る。ドアノブが無いドアは、じきにドア枠から外れて壊れることを示唆するような音を立てた……。


 銃器保管室から出た後、私たちは署長室へ赴いた。坂本君いわく、もう1つのアテだ。あの銃器保管室のほうは、ひとまず保留にするしかない。
 あの警官は、警察署自体からも出ていけと言っていたけど、そこまでは従えない。悪いけど、あのケガした足では、署内のパトロールすら無理だろうしね……。
 もう1つのアテとは、署長室の金庫だ。その中に、愛知県内における銃器所持者リストの控えが入っているらしい。そのリストを使い、銃を所持する一般人の家へ回収しに向かうのだ。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん