正常な世界にて
「なんだ、そうなのか」
坂本君の話を信じてくれたらしく、ショットガンの銃口を下げてくれた。しかし、ショットガンはしっかりと両手で構えられたままだ。昨夜はきっと、ホントに酷い戦いが行なわれたんだろうね……。
とはいえ、少しはほっとできた。しかし、部屋のロッカーを見回した途端、安堵できるのは後の事だとわかった。
銃器保管室のロッカーはすべて開けっ放しだ。すっかり盗まれて空っぽなわけじゃない。大半のロッカー内に、整備が行き届いた感じの銃が納められていた。ピストルやショットガンだけじゃなくて、警察の特殊部隊が使うサブマシンガンまであるのだ。しかも、弾薬が詰まった箱までたくさん残っている。ここの銃や弾を全部持ち帰るためには、何往復もしなくちゃいけないはずだ。
「こういう緊急事態のときには、開けたままになるそうだよ」
小池刑事から聞いたであろう話を、坂本君がそっと言った。小声だけど、沸き上がる興奮は隠せていない。
「悪いがここじゃなくて、別の避難所へ行ってほしい。この近くだと、北にある千種公園だな」
警官はそう教えてくれた。しかし、私たちが求めるのは、場所じゃなくて物だ。
「ありがとう」
坂本君はそれだけ言うと、座り込む警官の脇を通り過ぎて、ロッカーの1つへ向かう。薄暗い照明に黒光りするサブマシンガンや弾薬箱が、丁寧に置かれている。
「おいおい!! ロッカーに近づくな!」
驚いた表情の警官。彼は、空けた左手で、坂本君が背負うリュックを掴んだ。服の痛みを心配してか、坂本君はその場で立ち止まる。
「避難所までの道も危ないので、護身用に貸してもらえませんか? 後で必ず返しますので」
坂本君が言った。うん、まずは下から目線でお願いしてみないとね。普段なら絶対に許されないお願いだけど、こんな状況なんだし、特例で認めてくれるかもしれない。
「いや、ダメだダメだ! 危ないヤツが来たら、急いで逃げるんだ!」
しかし、そう諭されてしまった。職業柄か、柔軟性が無い人だね……。自分も、そのショットガンで自衛してる癖にだ。
「警察署を襲うようなヤツ相手に、逃げればなんとかなると!? アンタだって、逃げ損なってここにいるんだろ?」
坂本君が大声で反論する。怒りの言葉だけど、呆れも含まれている。
「逃げ損なったんじゃない! 署を死守するために残っているんだ!」
警官も大声で言い放ってみせた。この様子だと、繰り広げられた戦いが、荒れ狂うように白熱したものだったことは確実だね。廊下に凄惨な死体が放置されていなかったとしても、それを察知できちゃいそうだ……。