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正常な世界にて

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【第28章】



 車の助手席から、日光が差しこむ歩道や店先へ、次々に視線を移す。今は平日の朝で、ちょうど通勤時間帯に当たる。だけど、喧騒とは程遠い有り様である今の歩道や車道を見ると、それが嘘や勘違いに思えた。
 運転中の坂本君以外に、人の気配はちっとも感じない。みんな、どこかへ避難したか、家の中にひっそり隠れているんだろう。窓を開けていれば、カラスの鳴き声がしっかり聞こえそうな静けさだ。
 それに、24時間営業のコンビニすらも、シャッターを閉めている。昨夜の暴動を考えると、次にそのシャッターが開くのは、営業再開じゃなくて、略奪に遭うときだろうね……。それが自然に思えるほどの緊急事態を、昨日のリセット宣言が巻き起こした。その責任は、宣言した政府に向かうはずだけど、今はそれ自体が存在しない……。存在しないものに、怒りの矛先は向けられない。クレーマー気質な人間には、それが堪らないだろうね。

「着いたよ!?」

 その声に私は思わずビクッと驚く。いつの間にか、車がエンジンの唸りを止め、坂本君が助手席の窓の向こう側に立っていた。
 街の静けさ、リセット宣言、その責任について考えてたせいで、全然気づかなかった。考え事に過集中してしまうのは、ホントに悪い癖だね……。
「進めないから、ここから歩きだよ」
車から慌てて降りた私に、坂本君が言った。車道は放置された車で、歩道は無理やり駐車している車ですっかり埋まっている。確かにこれ以上は車で進めない。坂本君の先導に続き、私は車道を歩く。キチキチに詰まった放置車両の間を進みつつ、車内を覗きこんだけど、人はおろか、ペットの犬すらもいない。

 徒歩といっても、目的地である千種警察署はもうすぐそこだ。建物の道路に面した側がチラリと見えてるぐらいだからね。千種警察署も他の警察署と同じく、避難所になっているはず。だけど、警察官や避難者の姿は全然見えない……。
 いやきっと、署内で守りをガッチリ固めるんだろう。昨夜のラジオ情報だと、暴徒か何かに襲われて陥落した警察署がいくつかあったからね。陥落した警察署は、元々治安や住民の財政状況が悪い地域だ。この辺りは治安がマシだと聞いたことがあるから、大丈夫なはず……。
「ああ、夜の爆発はここで起きたみたいだね」
どうやら、ちっとも大丈夫じゃないらしい。

 ……署の道路側に面した窓が、すっかり割られていた。しかもそれらが、投石だけじゃなくて、銃撃によるものも含まれているとわかった。いや、むしろ銃撃がメインだろう……。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん