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正常な世界にて

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 坂本君の非暴力宣言遵守を祈りつつ、私は彼について歩く。どこへ連れていかれるんだと思い始めたけど、その目的地が目の前の交差点だとわかると、少し拍子抜けした。しかし、坂本君は真面目な表情でそこに立っている。私に見せたいものとは何だろうね?

 私たちの目の前には、交通事故付きの交差点があった。パトカーが市バスの横っ腹に衝突している事故現場だ。市バス車内に、人や死体の姿は見えない。しかし、パトカーの警察官が、凹んだボンネット上で、仰向けで死んでいた。
「……うんやっぱりね。その警官をよく見てごらん?」
坂本君が言った。怒らせたらマズイので、私は快く、その警官の死体を観察してみせた。死体を見るのは、もう慣れっ子だ……。

 死んだ警察官をしばらく観察してみた。坂本君はピストルを抜き、周囲を警戒している。ビルに当たる風が、小さなうなり声を上げていた。
 まず気づいたのは、警察官の状態じゃなくて、パトカーから無線機が盗まれている事だった。余計な事実のほうへ目が行っちゃうのは、悪い癖だね……。
 パトカーの状態を脇へ置き、警察官のほうをしっかり観察する私。短時間集中で、坂本君が指すポイントを見つけなくちゃいけない。とりあえず、この警察官の死因が交通事故じゃなくて、集団リンチを受けたせいだとわかった。凹みや足跡が、ボンネットにいくつもあるからだ。
「その警察官の腰をよく見てごらん?」
せっかちな彼が、ヒントをもう言ってくれた……。結論を早く言いたくて、うずうずしてる感じだ。
「銃が無いね」
腰のホルスター内に、ピストルが収まっていなかった。切断されたワイヤーの先端が、虚しく飛び出ているだけだ。紛失や強奪防止用の丈夫なワイヤーを切断してまで、警察官からピストルを奪い取ったヤツがいるらしい。
「そう、それだよ!」
これが正解だったらしい。一安心だね。
「銃がもうあちこち出回ってる状況なんだよ!?」
そういえば、昨夜の栄でも警察官が何人も死んでいた。彼らの銃も、今や誰かの手に握られているのは間違いない……。
「銃を持った集団に襲われたらどうするの? ボクや伊藤がプロの殺し屋だったとしても、数の恐怖には勝てないよ? ファンタジーじゃないんだから、剣や弓矢で銃に対抗できないんだよ?」
坂本君が次々に言ってきた。大声じゃないけど、強気と本気が強くこめられた口調だ……。

 私は何も言い返せなかった……。頑固な彼には敵わないね。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん