正常な世界にて
「ちょ、高山さん!」
冷や汗を浮かべ、彼女に詰め寄る私。恥ずかしさやらで一杯な表情と心情に陥った私。
「ああごめんなさい。……ただ、遅かれ早かれ見破られていたと思うよ」
そう釈明した彼女だけど、悪気は感じられない。彼女なりに良かれと思ったんだろう……。
まあ私も彼女の口から、坂本君がADHDだと教えてもらった身だから、あまり怒るわけにいかない。
「森村比奈さん!」
「は、はい!」
坂本君から突然フルネームで呼ばれ、ビクッと反応してしまう私。
私を爽やかな笑顔で見つめる彼。いかにも乙女殺しなこのスマイルに、どれだけ多くの女の子が落ちたんだろうか……。
「そうじゃないかと思ったことはあるけど、やっぱりそうなんだね!」
彼は興奮気味に言った。同じ境遇の人間に出会えた事自体が、心から嬉しいようだ。
しかし私のほうは、どことなく不思議な気分でいた。昨日判明したばかりだからだろうね。
着直したシャツをできるだけ乾かそうと、公園のベンチで雑談を続ける私たち。趣味の話でもいいけど、自然と障害関係の話になる。
「坂本君はいつ頃、その、発達障害だとわかったの?」
私は尋ねずにいられなかった。今はささいな事柄でも参考に聞きたいからだ。
「えっと、ボクの場合は小学生だよ。初診は確か、小五の中頃だったね」
懐かしげに話し始めた坂本君。長話になるかもだけど、最後まで聞かなきゃいけない。
「勉強はまあまあやれたけど、遅刻や忘れ物、掃除サボりの常習犯だった。そのせいで、通知表の生活面は悪評だらけさ」
掃除はサボらないけど、他は私と変わらない……。
「五年生の担任が発達障害に詳しくて、三者面談で真正面に疑われたよ。ラッキーな点は親が古い人間じゃなくて、淡々と通院までいけたところ」
ああ羨ましい! 私の両親なら先生に猛反発してる……。
「通院したては、しばらく様子を見ましょうだったけど、ある事故がきっかけで確定だよ」
「事故?」
「……自転車でジジイを轢いちゃったんだよ。うっかり角で見落としちゃってさ」
「ええっ!?」
私はそこまで厄介事は起こしていない。すると、坂本君は私よりも重症なんだろうか?