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正常な世界にて

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「ボクらも手伝いましょうか?」
坂本君が伊藤さんに申し出た。彼がまだ元気なのは良しとするけど、すっかり疲れている私は正直困るね……。
 時刻はもう午前0時を迎える頃だ。ホントに大変で刺激的な一日だったよ……。今は少しでも早く休みたいのが本音だ。
「……いや、今夜は休んでいいよ。彼女さん、酷く疲れてるみたいだからね」
伊藤さんがそう言ってくれた。もしかすると、私の表情に自然と浮かぶ疲労感に気づいたのかもしれないね。どうやら、悪い人じゃなさそうだ。
「ありがとうございます!」
「明日やってもらう事とすれば、調達に出かけてくれるとありがたい。ついさっきの一家もそうだけど、何軒かが逃げちゃって、人手不足なんだ」
「物次第だけど、調達ならできますよ。……しかし、名古屋市外へ脱出するのも一苦労じゃないですか?」
「わかってる限りの情報だけど、東名も名神も通行止めになってるそうだからね。下道を飛ばせば、三重や岐阜へ抜けることもできると思うけどさ」
確かに、名古屋のあちこちで起きてる暴動を考えれば、田舎へ逃げるのも1つの手だね。
 だけど、田舎がずっと平和な場所だとは、高校生の私でも思えない。『都会は危険で、田舎は平和』というのは、都会人が田舎に対して抱く典型的なイメージに過ぎないはずだ。
「まあ、難しい物を頼むだけだから、あまり気構えずにココに来て。メモを用意しとくよ」
「わかりました。それじゃ、また明日」
伊藤さんは、荷物を運ぶ住民たちの元へ向かう。
 私と坂本君は、坂本ママが恥ずかしくない程度に掃除を済ませられるよう、マンションの敷地内を散歩することにした。

 マンションの敷地を囲むフェンスには、真新しい鉄条網が編み込まれている。まるで、色違いで目立つ筋がワンポイントの、毛糸のマフラーみたいだ。そう考えると、鉄条網に生える小さなトゲが、静電気で波立っているようにも見える。
「ここの守りは、これからもっと強化されるはずだよ。だから安心して」
「うん、わかった」
私の声には、疲れや眠気が、自分でも驚くぐらい含まれていた。連続した危機の末、ようやく安心できたからだろう。安心できた拍子に、それらが噴火のように湧き出てきた感じだ。
 それに今は、もう午前0時過ぎだ。普段なら、もう夢の世界だ。
「もうそろそろ、掃除終わってるんじゃない?」
「そうだね。じゃあ行こう」
厚かましい話だけど、坂本家で少しでも早く眠りたかった。横になって眠れるなら、ソファやカーペットの上でも全然構わない。
 フェンスの向こう側から、銃声が連続して何回も聞こえてきたけど、眠気が吹き飛ぶどころか、少しも驚きを感じなかった……。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん