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正常な世界にて

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「病院へ行く途中にもいたけど、ああいうのもウロウロしてるから、気をつけなくちゃね。……森村? おい森村!?」
坂本君の強い呼びかけに、私の脳内演説は中止された。
「……救急車を呼ぼうか?」
坂本君が言った。気まずそうで申し訳なさげな口調だ。
「いや、呼べないしもう無理だよ」
救急車を呼ぶ事すら、今は難しい状況だ。それに両親は完全に死んでいる。もし呼ぶとしたら、霊柩車や坊さんになる。
「……残念だね。ホントに残念で悔しいよ」
「ありがと。……悪いんだけど、両親を部屋まで運ぶのを手伝ってくれない?」
今できるのはそれぐらいだ。このリビングに放置したままじゃ、死臭や腐敗でとんでもない暮らしになっちゃうからね……。かといって、マンションのゴミ捨て場に捨てるわけにもいかない。死体は家庭ゴミとして捨てられないし、今はゴミ収集車が来ることすら望めない。
「うん、もちろん手伝うよ。……だけど、部屋じゃなくてベランダがいいんじゃない? 閉ざされた室内よりも、空が見える外のほうが、ご両親も心地良いと思う」
坂本君の提案を聞き、私は高山さんの両親を思い出した。彼女は、殺した自分の両親を、室内で放置する形で死体処理をしていたのだ……。経緯は全然違うけど、もし私も両親の死体を、家の一室でそのまま放置してしまえば、似た行動をしてしまっていることになる。そう思った途端、
「うん! そうしよう!」
彼の提案を即座に受け入れた……。強烈な反骨心のような心情が、私の中に湧いたのだ。
 私の快諾に、坂本君は若干驚いている様子だった。しかし、快諾した理由を話す気にはなれない。理由を話せば、彼もあのおぞましい記憶を思い返さざるをえなくなる……。

 私と坂本君は、グロテスクな姿と化した両親の死体を、ベランダへ淡々と移す。そして、大きなレジャーシートを広げ、両親の首から下を覆い隠した。
 大量出血や凄惨な死体には、すっかり慣れっこだ……。もはや開き直ってもいいぐらいに!
 ただ、両手だけでなく上下の服も、血ですっかり汚れてしまった。この服を着たまま、ベッドで寝転がる気にはなれない。坂本君は洗面台で軽く洗ったり、服の表面でこする程度で耐えられるみたいだけど、私には耐えられない。自室へ駆けこみ、替わりの服を探し始めた。
 自分の両親の血を汚れと認識するのはマズイかもしれない。だけど、今はそれを考えずにおかなきゃね。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん