正常な世界にて
イケメンの坂本君にいきなり相席を頼まれれば、たいていの女子はああなるもの……。
「ありがとうございます!」
無邪気に笑顔まで振りまきながら、彼は堂々と席についた。
彼と対面する形の彼女は、すっかり顔を紅潮させている。教科書通りなウブそのもの。
「もしかして、お邪魔だったかな?」
「い、いいえいいえ! 全然、まったく全然!」
寒気すら感じる会話に、私は吐き気や胸の締めつけを覚えた。
「うーん、なんだかムカムカしてくる」
高山さんの眉間にシワが走る瞬間を、私は見逃さなかった。
「無関係とはいえ、あそこまでされると、嫌な気分になってこない?」
私も彼女と同感だ。これはきっと、女性としての嫌悪感だろう。あるいは、リア充への単なる嫉妬だね。
会ったばかりにも関わらず、坂本君とその女子はカップルなほど仲睦まじい。以前からそんな関係だったかのよう。
彼女はきっと、運命の人に出会えた気分でいる。しかし相手は、女垂らしのADHD高校生……。
「それなのに毎朝早起きできるんだ。いやあ、ボクなんて全然ダメでさ」
「部活が好きだから」
高山さんのほうは知らないけど、恋人のいない私にとって、こういう系統のやり取りは居心地が悪いもの……。これは嫉妬だけじゃない。
「いいこと思いついた。手伝える?」
ニヤリと笑いかけてきた高山さん。何か悪巧みを思いついたらしい。
「どんなどんな?」
とても気になり、話に乗らずにいられなかった。こんな状況を打破する、痛快な展開を期待できそう。彼女は私に手招きし、作戦を囁き声で教えてくれた。
……高山さんのアイデアは最適解そのもので、結果を想像し笑いかけたほど!
「坂本君、いい度胸してるじゃん! ワタシたちに二股かけていた件が発覚したばかりなのに!」
高山さんは坂本君のほうへ早足で向かいながら、ヒステリックに叫んでみせた。演技に思えないほどのマジ切れ……。脊髄反射的に高山さんを見るお二人。
「た、高山さん? えっ、なんで?」
「えっ、えっ、えっ?」
転がり落ちる展開に坂本君と女の子は、目を見開き戸惑った。テレビドラマあるあるな、浮気現場に踏みこまれたワンシーンのよう。
私の役回りは、彼女の背後でギロリと睨みつけまくること。演劇部の経験はないけど、迫真の表情を見せつけてやる。