正常な世界にて
放課後、私と高山さんは最寄り駅近くのマクドナルドへ入る。お昼頃なので店内は混雑し、同じ高校の子もチラホラ見かけるほど。
しかし運よく、一番奥の二人席を確保できた。運悪く確保し損なったぼっち男が、店内を虚しく徘徊している。ゴミ箱の上でガマンするしかなさそう……。
「高山さんはその、いつごろ、いつ自分が病気だとわかったの?」
食事中にする話題じゃないけど、話せる共通の話題を思いつけなかった。
「生まれつきだよ。子供の頃から病院で診てもらってる」
彼女は躊躇うことなく言った。慣れた口調で、今まで同じ質問を何度も聞かれているに違いない。
「先天性の精神障害だから、死ぬまで付き合わなきゃいけない病でね」
専門用語を聞き、ハッとさせられた私。
自分も彼女のように、障害を一生抱えて生きなければならないんだ……。いわゆる「不治の病」というやつ。
けどとりあえず、今は深く考えずに過ごそう。悩みに悩んだ末、狂うことだってありえる。
「それよりさ、後ろを見てみなよ?」
高山さんが私の背後をアゴで示す。
なんだろう? さっきのぼっち男が泣き始めたのかな?
「んっ?」
コカコーラを口に含みつつ、後ろを振り向いた私。
なんとあの坂本君が、空席を探し店内を右往左往している! トレイにバーガーセットを乗せ、一人で昼食を済ませるところらしい。
「ああ、さっきの彼女はどうしたんだろうね?」
高山さんは冷やかにそう言い、乾いた笑顔を浮かべている。私の表情も自然と似たような具合に……。
私と彼女はこっそり観察する。いい話の種だ。
「すみません、相席いいですか?」
空席探しを諦め、誰かに相席を頼む彼。
……彼が狙いを定めたのは、同じ年頃の女子だ。彼女は、二人席に一人でいて、反対側のイスに通学カバンを置いている。
ブスではないけど地味な風貌の彼女は、ある女子校の生徒だった。制服のデザインは、私たちのそれのよりも地味なデザインで露出は控えめ。
「えっ! い、いいですよ!」
彼女の口調は少々裏返っていた。大急ぎで慌てながら、向かいの席に置いたカバンをどかす。