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正常な世界にて

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「これが鍵を解除する機械だな。だけど、数字が書いてるだけだから、どれがどこの鍵なのかわかんないや……」
警備室の一番廊下に近い側に、ドアロックを解除する機械が置かれていた。ロック中を示す赤いランプが整然と点いているのだが、どれがどこのボタンなのかがわからない。たぶん、脱走を防ぐために、わざとわかりにくくしているんだと思う。
「ここを探せば、どこの鍵なのかのメモが見つかりそうだけど、そんな時間はないから、こうしちゃえばいいや」
坂本君は、ロック解除のすべてのボタンを、勢いよく次々に押し始めた……。いつも通りの思い切った行動だね。
 ガチャンという重い金属音が、警備室の外から連続して聞こえてくる。病室エリアへ続く鉄格子の鍵が解除されたみたいだけど、病室それぞれの鍵も一緒に次々に解除されていくのがわかった。見境無く鍵を解除しているのだから当然だけど、私の恐怖心は高まる……。
「病室だけ鍵できない?」
「いや、どれがどこの鍵が全くわからないからさ」
坂本君がそう言い終わるよりも前に、手前から4番目の病室のドアが開いた。そこから、患者がゆっくりと出てくる。廊下に出たそれは、左右をマジマジと見ていて、強化ガラス越しの警備室にいる私たちの存在に気がついた。
「……ああ、気をつけて通れば大丈夫だよきっと。例えば、目を合わさないようにするとか、怯む素振りをしないとかさ」
いやそれは、野生のニホンザルへの対応だった気がする……。
「ここで待つか? この警備室にも鍵はあるみたいだし」
「……ううん、手伝うよ。二人でさっさと持っていこう」
私と坂本君は、何事も無いかの如く平静を装い、開いた鉄格子をくぐった。先ほど以外の患者もぞろぞろと、病室の外へ出てきた。私たちが医者や看護婦じゃない事もあって、患者たちからの強い注目を浴びてしまう……。うーん、警備室で待つべきだったかも。
 ふと気がつくと、私の手は坂本君に握られていた。彼の手の平に、汗が少し浮かんでいるのを感じる。さすがに彼でも、こんな状況だと緊張するみたいだ。もちろん、私もかなり緊張しているし、手汗はしっかりかいてる……。

「お前ら、勝手に入ってきたな? 警備員とかはどうした?」
大柄な男性患者が話しかけてきた。彼は私たちの正面に立つ。そのつもりは無いのかもしれないけど、立ちはだかったという表現が正しいかもね。
「ちょっと、奥にある薬の倉庫に用事があってね。大丈夫、気にしないで」
坂本君はそれだけ言うと、彼の横を通り過ぎる。私もすぐ横を通り過ぎる事になったわけだけど、通り際に腕を掴まれはしなかった。圧迫感は強かったけど……。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん