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正常な世界にて

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 救急外来は、ゴールデンウィークの遊園地よりも酷い大混雑だった……。その光景に立ち尽くす私。坂本君もここまで酷いとは予想していなかった様子。
 ソファが満席なのはもちろん、急きょ用意されたパイプイスも全然足りていない。飛び交う怒号と、激痛を訴える泣き声。院内放送が度々流れるけど、騒々しさでそれは掻き消される。そして、血の鉄臭さと、消毒薬の刺激臭が混ざり合った空気が、院内に満ちていた……。

 この名大病院に来たのは初めてじゃないけど、大混雑のせいで、どこに受付があるのかわかりにくかった。天井の案内を頼りに、人混みをかき分けながら、ようやく受付に着いた時には、坂本君と坂本ママが先に着いていた。恥ずかしい……。
「受付番号札も無いの?」
坂本君が受付のナースに言う。受付に置いてある番号札の発券装置は、紙切れのランプを光らせていた。私たち以外にも、待たされるケガ人は大勢いた。
「すいませんが、待ってください!」
あまりの多忙さに吹っ切れたのか、ナースのはウンザリ顔で、ぶっきらぼうな口調だった。完全にキャパオーバーで参っている感じだ……。
「応急措置の止血だけでもいいんですよ? 包帯や消毒薬があるなら、自分でやるからさ?」
「あのですね? ガーゼも無くなりかけてるんですよ? メーカーとも連絡がつかないし、もうカツカツです!」
坂本君の譲歩案は、ナースに一蹴された。人も物も不足する危機的状況みたいだ……。
「母さん、よその病院に行こう」
「どこも同じですよ? 完全にダメになった病院がいくつもあって、そこの患者が回されているぐらいですからね?」
二度目の一蹴だ。
「わかったよ。ありがと!」
焦りとイライラを隠せない坂本君。私がDVを受けた事は無いけど、彼は気が短いほうだ……。

 坂本君は母親に肩を貸しつつ、待合室の奥へ向かう。入ってきた出入口とは反対側だ。私はそれに疑問を感じつつ、二人に付いていく。坂本ママの右腕から、血がポタポタと滴り落ちていた。このままだとマズイのは確かだ……。
 待合室の一角が、臨時の応急措置エリアになっていた。消毒薬の臭いが、一層キツく感じる。
 レジャーシートに整然と並べられたケガ人たちは、ベルトコンベア式で、応急措置の順番が来るのを待っている。そこには、医者が一人いるだけで、そのメガネをかけた中年男性の医者は、淡々と仕事に集中していた。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん