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正常な世界にて

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『繰り返す。我々は自由の発達戦士だ。この酷い状況を起こした者ども、共産主義者ども、アンチ発達障害者どもの連中には気をつけろ。我々は、このチャンネルで、最新情報をお伝えする』
なんだ? この宗教みたいな変な放送は?
『おかしなデマに惑わ』
『と白川公園と中村公園も、安全な場所ではなくなりました……。これらへ移動中の方は、他の場所へ向かってください』
坂本君は、周波数を緊急ラジオに戻した。気にはなるけど、今は思想に浸る状況じゃない。現実逃避は、どうしようもないときにするものだ。
「あら嫌だ。エンジン火災かしら?」
坂本ママが反対車線を見て言った。私もその方向を見る。
 反対車線の向こうから、日産の『リーフ』が走ってきていた。もちろん、トヨタの愛知県で日産の車が走ること自体は問題ない。問題は、その車がボンネットから火を吹き出しながら、蛇行走行している点だ……。ドライバーの姿は見えないけど、正常な状態でないことは確かだね。幸い、この道路には植木付きの中央分離帯がある。反対車線で勝手に事故ってくれればいい。
「嫌な場所があるな。ってうわぁ!」
燃える車がその場所へ、ゴーンと突っ込んだ……。その数秒後、

 ドォォォォン!!

 車内にもガッツリ響く大きな爆発音とともに、地響きと地鳴りが起きる。車全体が揺れ、運転席の窓ガラスが割れた。
 燃える車が突っ込んだ先は、燃料電池車用の水素スタンドだった……。燃える車が水素スタンドの供給機に衝突した数秒後、漏れ出た水素と炎が化学反応を起こし、大きな水素爆発が起きたのだ。私たちにできたのは、「爆発が起きるかもしれない!」と予測するぐらいで、素早く身を守るなんて芸当はできなかった……。
「イタッ!」
坂本ママが悲鳴をあげる。爆風で割れたわけじゃなくて、飛んできた破片が直撃したせいだ。
「母さん! 右腕に刺さってる!」
坂本ママの右腕に、小さな金属片が突き刺さっていた……。大ケガではないけど、傷口からドクドクと出血している。渋滞中だったおかげで、車が暴走する事態は避けられた。坂本ママは痛そうだったけど、自分でハンカチを使い、応急措置の止血をする。
「運転はなんとかできそうだけど、病院に寄ってもいいかしら?」
痛みに耐えながらだけど、口調はしっかりしていた。こんな時でもタフな人だね。
 水素スタンドは、骨組みを少しだけ残す形で全壊していた。突っ込んだ車は、車体がグシャグシャに折れ曲がっている。誰か乗っていたかもしれないけど、死体すら見つけられない。
 そして、反対車線側の歩道にいた人々の多くが、ケガをしたか、倒れたまま動かないという状態だった。応急処置の講習か何かを受けた覚えはあるけど、AEDの使い方はもうさっぱりだ……。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん