正常な世界にて
「森村さん、毎日大変そうだね?」
授業後の昼食タイムに、高山さんが突然話しかけてきた。彼女の艶やかな右手には、弁当袋がぶら下がっている。
「う、うん」
ぼっちで弁当を食べてた私は、間抜けな返事をしてしまう……。
すると高山さんは、私の机上で弁当を広げる。一人寂しく食べてた私を気遣ってくれたらしい。断りなくとはいえ、嫌悪感は不思議と湧かなかった。
「もしかして、高校に入る前から大変だった?」
甘そうな卵焼きを食べながら、彼女は尋ねてきた。
「……恥ずかしい話だけど、子供の頃からこうなの」
思い切ってそう言った。彼女なら、別に話しても大丈夫な気がしたからね。
「そうなんだ。毎朝遅刻ギリギリなのもそう?」
「うん。時間の管理が、どうしてもうまくできなくて……」
毎朝綱渡り状態な私。
「かなりツラそうだね」
真剣な表情を浮かべる彼女。
「……うん。正直、自分が嫌になってきてる。自分はどうしようもない人間だって……」
ここが教室でなければ、泣き出してただろう。そして恥をかく。
実際、どうしてもうまくいかない自分に嫌気がさし、自室のベッドで涙を流したことは何度もある。マジメに死にたくなったこともね。
「森村さん、少しでも楽になれる方法はあるよ。助けてあげられる」
彼女はそう言うと、私の両肩に手を置いた……。彼女の力強さを感じる。なんともほっとする。
机の上の弁当箱をどかして、彼女の胸に飛びこみたい! いろんな意味で心地良さそう。ただ、レズではないので思い止まる。近くにいたオタク系男子が、残念そうに私たちを見てたけど、気色悪いので見なかったことにする。
ともかく私は、眼前の彼女にすがることに決めた。彼女なら、頼っても大丈夫な気がしたからね。