正常な世界にて
「お前たちはこれからどうするんだ? こんな世界で生きていけるのか? リセット前だって、お前たち発達障害者は、困りながら生きてきたわけだが」
小池が言った。別にからかう口調ではなく、私たちを心から心配している口調だった。自分の身も危ないのにね。
「発達障害のADHDは、人類が狩りで生きていた時代の名残だと言われているよ。だから、なんとか生きていけるさ。それにさっき貰った情報をうまく活かすよ」
小池からの情報?
「情報だけじゃ生きていけないぞ? 何か策はあるのか? ……秘密にしたいなら、これ以上は聞かないが」
「特別に教えてあげるよ。ボクたちは、池下駅近くのセンターガーデンを要塞にするんだ」
え? センターガーデンって、坂本君が住んでいるマンションじゃあ……。あそこを要塞に?
「……ああ、あそこか。新しいマンションだけじゃなくて、うまいメシ屋や高いスーパーがあったな」
「あの辺一帯の道路を封鎖して、要塞にするんですよ。警察の装甲車や鉄球作戦にも耐えられるレベルの造りにしたいなぁ!」
坂本君は、挑発するような口調で言った。
「へぇ、そうなのか? じゃあ、特型警備車で挨拶しに行ってやろうかな?」
挑発を受け流した小池。
しかし、要塞なんて簡単にできるものなのかな? 建築の授業なんて、一度も受けてない。
その時、ドアの外から大きな爆発音が聞こえた……。それと同時に、床やシャンデリアがグラグラと震えた。こんな時に地震まで起きちゃったのか?
いや、地震の揺れ方じゃない。これは大きな爆発による振動と爆音だ……。坂本君にもそれはわかったはず……。
「おいおい、まさか……」
同じくわかっているはずの小池は、冷や汗を浮かべながら言った。
『……こちら、第三チーム。隊長は、行方不明、です。第二チームの隊長も、行方不明になって、います……。地面で、大きな、大きな爆発が、起きたんです。みんな、飛びました。空を飛んで、いきました……。バラバラ、です、バラバラ……』
警察無線から、沈痛な趣のある声が聞こえてくる。近くで大爆発が起きて、警官がまとめて殺されたみたいだね……。暴徒たちの中に、爆弾を扱える人間がいるのかな?
「おいおい、警察にとって最悪な時代になったもんだ。私の先輩が言っていた、安保闘争よりも酷い……」
眉間にシワを寄せる小池。悲惨な出来事の連続で、すっかりクタクタみたいだね。彼にかける声は思いつかない。