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正常な世界にて

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「恥ずかしさも感じながら、私は署を目指した。道路は完全にマヒしていたから徒歩しかない。一秒一秒ごとに、治安が壊れていくのを、嫌でも目にしたよ。略奪、強盗、暴力、強盗、放火、レイプ、リンチ、爆発。犯罪のオンパレードさ。私はもちろん、街にいた警察官は、もはやどうしようもない様子で見過ごすことしかできなかった。我々は銃を持っているが、弾をたくさん持ち歩いているわけじゃないから、自衛で精一杯だ……。できることといえば、悪人どもの顔を覚えておくことぐらいさ。名古屋自治政府ができたら、一人残らず逮捕してやる。……自治政府ができたらの話だけどな」
小池はそう言うと、悲しみがこもるため息をついた。

 私は、警察無線のほうへ聞き耳を立てた。
『実弾発砲の許可をくれ! これ以上は抑えられない! 外掘通りまで突破されるぞ! 実弾を使わせろ!』
『実弾の発砲は許可できない! 状況がさらに悪化する恐れがある! 催涙弾、ゴム弾で対応してくれ!』
『無茶言うな! 急所は外す! 実弾を使うぞ!』
『ダメだ止めろ!』
『すまん! パァン!! パァン!! パァン!!』
銃声が何度も聞こえてくる。しかも、無線からだけじゃなく、店の外からもだ……。おかげさまで、銃声は何回も聞いているけど、緊張感はいまだに湧いてくる。

「……署まで徒歩十分ぐらいまできた時のことだ。私の目の前で、パトカーがひっくり返された。パトカーがひっくり返される光景なんて、海外ニュースや映画でしか見たことがなかったから、衝撃的だったよ。……訓練でも見たことがあったが、訓練とは全然違う。しかも無人じゃなくて、警察官が乗ってたんだぞ!」
小池は強くそう言うと、涙をポロリと流した。
「そこにいた連中は、キチガイみたいに笑いながら暴れてた! パトカーから警察官を引きずり出してリンチだぞ! リンチされてたのは、まだ研修中の新米ボウズだった! 人々からまだ恨まれていなかったはずだ! ウチの課長と交換できるならそうしてた!」
ジョッキのビールを一気に飲み干す小池。ジョッキを持つ手が、スマホのバイブみたいに震えている。
「もう一杯飲みます?」
「いや、しばらくやめとくよ。ありがとう」
坂本ママからの勧めを断った小池。確かに、今これ以上飲むのはマズそうだ。酷く酔われてしまうと、話の信憑性がグラグラと崩壊してしまうからね。
「そこで発砲したよ。今度も威嚇な。集まっていた連中が、ぐいっと私に注目した。……新米ボウズも気づいてくれたと思う。連中は、私が撃てるタイプの警察官だとわかると、新米ボウズを解放したよ。だが手遅れだった……」
飲み干した事をド忘れしたのか、空のジョッキを一度掴んで放す。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん