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正常な世界にて

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「私が発砲すると思ってなかったらしく、強盗は三人とも逃げ出したよ。紙幣やコーヒー豆を撒き散らかしながらな」
強盗はたぶん、発砲してこないとタカをくくってたんだろうね。
「事件は解決したが、店の客や店員まで驚かせてしまってね。さすがに居づらく感じたよ。どのみち、そこに長居をするつもりはなかったから、徒歩で署へ戻ることにした。最後に念のため、応援をまた頼んでみたが、やはりダメだった」
どこのカフェなのかは知らないけど、突然の銃声に驚いちゃう人がほとんどだろうね。
「店を出たところにも、紙幣やコーヒー豆が散らばっていた。通行人が踏んだらしく、コーヒーの香りが漂っていたよ。オレの発砲のせいだろうが、街はさっきよりも静かだった。渋滞している車のエンジン音がはっきりと聞こえるぐらいにだ。それでも私は、周囲を警戒しつつ、署に向かい始めた」
私は、狙撃されたときの事を思い出した。あのときのような、不気味な静けさがあったんだろうね。
「視線を感じながら歩いていると、五十メートルぐらい前のコンビニで、略奪が起きていた。ぱっと見たところ、そいつらは外人だったよ。技能実習生崩れの不法滞在者だろう。なにしろ、銃声を気にしないぐらいだからな」
彼らが雇い主に酷い扱いをされているのはわかるけど、ここは普通の法治国家だから、犯罪は勘弁してほしいものだね……。
「さっきの強盗と同じく、私はそれを見過ごすわけにはいかなかった。どうせならと思って、アメリカの警察みたいに、銃を構えながら向かったよ。ところが今度は、後ろにあるコンビニでも、略奪が起き始めた。どっちへ向かうべきかで迷ったよ」
そういえば、この店へ来る途中にも、略奪中のコンビニがあったね。今頃は、買える物が無くなっていそうだ。
「私が迷っていると、すぐ近くにいた、生ビール運びのトラックが襲われた。荷台がこじ開けられ、次々に盗まれていったよ。ドライバーの兄ちゃん、呆然としてたな。……不謹慎だが、生ビールが飲みたくなったよ」
「あらあら」
いつの間にか一緒に話を聞いていた坂本ママがそう言った。それから、カウンターに入り、小池に生ビール入りのジョッキを渡した。
「悪いな、ママさん。後で必ず礼をするよ」
小池はそう言うと、注ぎたての生ビールを、ぐいっと飲む。生ビールのCMみたいな飲みっぷりだね。
「……そのビール泥棒が引き金になったらしく、一気に大騒ぎが起きた。店という店で略奪が起き、強盗が大発生さ。しかも、逃げようとする車で、事故があちこちで起きたんだ。私一人には、どうしようもない酷さだったさ……」
ジョッキの半分ほどを飲んでから、小池はそう言った。これ以上無いぐらい、悔しそうな表情を浮かべている。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん