小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

正常な世界にて

INDEX|185ページ/381ページ|

次のページ前のページ
 


「私も、とりあえずの対応としてはいいと思ったさ。……だが、二重行政の弊害が、こんな時にも起きたんだよ。名古屋市長が陣頭指揮を取り始めたと思ったら、愛知県知事もやって来てな。市長の自治政府樹立が、よっぱど気に入らなかったらしく、市長に文句をつけ始めたんだ。そのおかげで、少しは収まった混乱が、また酷くなった。名古屋市長側につくヤツ、愛知県知事側につくヤツ、どちらでもないヤツといった構図ができてしまってな……。市内のあっちこっちで、買い占めや略奪が起き始めていたにも関わらずだ」
怒るのをスルーして呆れたことだろうね。高山さんの組織とは正反対で、市長と知事は根回しを一片もやってなかったのだ……。
「今すぐさっさと決闘を始めて、ケリをつけてほしいと思ったが、その気持ちは脇に置いた。私は思い切って、市長と知事の間に割って入り、仲裁をしたさ。私にできることだったからな」
勇気のある行為だと感心した。私なら、無責任な傍観者になってる
かもしれない。
「殴り合い直前でなんとか、市長と知事をなだめることができたよ。仲直りの握手まではしなかったけどな」
あの二人を、どうやってなだめたのかがつい気になったけど、今は脇に置こう。いつか後に、「二重行政の弊害」というテーマで学べる機会が来るだろうね。
「……ところがだ。本部のお偉方の一人が、この仲裁を良く思わなかったみたいでな。『余計なことをするな。殺されても知らないぞ』と、こっそり言ってきやがった」
「脅されて怖くなっちゃったんだ?」
カウンターの端にいる坂本君が、余計なことを言った……。
「ヘッ。この歳になれば、お前もわかるさ。体が思うように全然動かなくなってくるからな。それに、組織に買収された課長が潜り込んだままじゃあ、名古屋自治政府崩壊は避けられないさ」
「でも、この無線機は? やっぱり気になるから、ここに持ってきたんじゃない?」
坂本君は言った。ニヤニヤと嫌らしい顔をしている……。刑事の図星を突けたと確信しているつもりなんだろうね。
「……まあ、気になるのはその通りだな。高校卒業後、この歳になるまでずっと県警に勤めてきた。どうせダメになるなら、その最期を見届けてなければな……。お前らはバカにするかもしれないが、それでも私の人生がそこにあったんだよ」
刑事は静かにそう言うと、グラスの酒をぐっと飲む。
「泣かせるねえ。愛知県警の警察官はみんな、歩道で日向ぼっこしてんのかと思ってたよ」
「……楽に警察官をやりたいなら、交通課へ行ってたさ。平針で、お前みたいなガキんちょの根性を叩き直す仕事も悪くない」
平針と聞き、運転免許のことを連想した。来年か再来年に、私はあそこで免許を受け取るつもりだったのだ。この流れだときっと、私も坂本君も、無免許運転をせざるを得ないだろうね。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん