正常な世界にて
「奴も警察官だ。現役の警察官が殺されたとなれば、どこの警察も本気になる。ガチのガチだ」
まあ、身内関係だとそうなるだろうね。
「ところが、簡単な捜査だけで、それでおしまいだったんだ! 捜査本部もできなかった」
身内以外だと、簡単な捜査でおしまいなのかな……? 本筋よりも怖い話だね。
「もちろん、刑事課長や上に抗議したが、すべて無駄だった……。そこでやっと私は、背後に巨大な組織がいると確信できたんだ。だがしかし、完全に手遅れ。警察だけでなく、政治家、政府上層部にも、すでに根回し済みだった。どうやら、課長もその組織と関わりがあるらしい」
「だから、ここに逃げ込んできたんだろ?」
これは坂本君の発言。彼は顔を赤くしている。ジュースじゃなくてカクテルを飲んでいたようだね。緊張感が相変わらず皆無だ……。
「……それは後で話す。酷い根回しがされていたせいで、とうとう関係する捜査を全部やめさせられた。かなり危険な組織のようだ。こっそり調べたところ、他の国々の上層部にも、その組織の根回しがされてるようだ。しかし、早く気がついていれば、根回しがされる前に、組織そのものを潰せたかもしれない。いや、潰せたはずだ」
彼はそう言い切ると、グラスの酒を一気に飲み干した。彼の顔も、すっかり赤くなっている。完全にやけ酒だね。
確かに、彼が捜査ミスを起こさなければ、高山さんの組織が成長するのを防げたかもしれない。だけどそれは、私や坂本君にも、できたかもしれない。だから、彼を責めることなどできる立場じゃなかった。
……とカッコよく言ったものの、高校生である私たちにできることは、現実的に何があるだろうか? アメリカ漫画のスーパーマンみたいな能力を持っているわけでもない。できることといえば、高山さんを説得するぐらいだ。それは失敗したけど、チャレンジはしたんだ。「できることをやればいい」なんだから、責めないでほしい……。
「完全に手詰まりだった。各国の上層部に闇深く喰いこんだ組織を退治する手段は、もう残っていなかった。……これからの未来を背負う、お前たちにも悪いけどな」
彼は言った。彼の口調からは、後悔や罪悪感が強く感じ取れた。
「……いや、できることをやるしかないですよ」
私はそう言った。これは、私自身に対する言葉でもある。今は納得するしかない。後悔は、文字通り後回しでOKなんだ。