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正常な世界にて

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「ごちそうさま」
普段よりも小声で言った私。それから時計を見てドキリとする。
 毎朝恒例だけど、遅刻ギリギリの時間帯に突入していた。家中の床を踏み鳴らし、通学の準備をする。何も知らない人がもし見れば、奇妙なダンスでも踊っているようなてんてこ舞い……。
「行ってきます!」
家を飛び出す私。
「あっ、忘れた!」
すぐさま忘れ物を取りに戻る。私はほぼ毎朝、何か一つ忘れ物をしてしまう。または、さらにもう一つ……。

 なんとか通学の途につけた私。だが、のんびり歩く余裕はない。遅刻ギリギリラインの電車に乗らなきゃ遅刻……。
 やや危ないタイミングで横断歩道を突っ走る。安全確認した上でね。そして駅に着くと、マナカのカードを改札機へ叩きつける。競馬スタートのように、改札機を通過していく私。
 構内アナウンスが電車の到着を告げている。車輪の走行音が聞こえ、息を整える余裕はないと告げられた。
 下り階段を一気に駆けおりたタイミングで、電車が突入してきた。ああ間に合った。
 けど、まだ遅刻を回避できたわけではない。駅から高校の教室までの道を駆け抜けなきゃいけないんだ。


 結局遅刻は避けられたけど、今朝もギリギリセーフな事実は変わりない。クラスメートの何人かが、「またか」という呆れた表情を浮かべていた……。
「おはよう、森村さん!」
そんな中、高山さんが近づいてきた。いつもの明るい調子で。
 彼女の顔を見た途端、昨日そのものを思い出す。こんなに明るく振る舞う彼女でも、私と同じく、脳に爆弾を抱えて生きているんだ……。しかし、周囲にいるクラスメートたちは知らずに生き、日々を過ごしている。
「早く席に着きなさーい!」
教室に担任の先生が入ってきた。無論、彼も知らずに生きているんだ。なんだかまるで、知らず知らずの内に別世界で過ごしてるような、奇妙な違和感。
「おはよっ!」
先生が出欠確認を始めかけたとき、男子高校生が教室に走りこんできた。勢いよく開いたドアが、うるさい音を立てて止まる。
「…………」
教室中の視線が彼へ集中する。
「あっ、あれ? 遅刻になっちゃった?」
見ればわかるだろうに。……しかし、他人事じゃない。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん