正常な世界にて
「おいおい、これはすごいな! リアル〜!」
陰キャラ三人組の誰かが、興奮の声をあげた。呑気なもんだね。
ポンッ! ポンッ! ポンッ!
ビニール袋が破裂したような音が、何度も高く鳴る。方向的に機動隊側から発された音だ。
「ガスだ! 催涙ガスだ!」
暴徒側から、息苦しそうな叫び声があがる。どうやら、海外で暴動の鎮圧によく使われている、催涙ガスを機動隊が使ったようだ。よく見ると、白い煙が暴徒たちの足元からモクモクと立ちのぼっている。テレビで見た通りだね。
盾を構えた機動隊の陣形のすぐ後ろで、グレネードランチャーを構えた機動隊員が数人いた。訓練でしか使ったことが無いらしく、慎重に催涙弾を撃つ狙いを定めている。ピストルで使われるような実弾でないとはいえ、小さな金属の塊を飛ばすことには違いない。弾もタダじゃないし、慎重になるのは当たり前だろうね。
「後ろの奴らを狙え〜!!」
暴徒たちの中から大声があがる。いくら暴徒とはいえ、頭がマシな人間は、どこにもいるものだ。
その命令に素直に受け取った暴徒たちは、催涙弾を今にも撃とうとしている機動隊員に向けて、再び投石などを始めた。「など」というのは、火炎瓶もまた混じっていたからだ……。
幸い今度は、火炎瓶は誰にも直撃しなかった。しかし、硬い道路で割れた火炎瓶は、ちょっとした火の海を広げる。
「うおっ!」
グレネードランチャー装備の機動隊員が、慌ててバックステップを踏んだ。自分のすぐ足元まで、火の海が広がったのだから、この反応は当たり前だった。
しかし、勢いよくバックステップした拍子に、ランチャーの引き金を引いてしまった。もちろん、そんな時に狙った方向は、メチャクチャな具合だ……。
ポンッという音ともに、ランチャーから催涙弾が放たれる。その催涙弾は、暴徒たちの方向ではなく、私の方へ飛んできた……。しかも、かなりのスピードだ。催涙弾は、歩道上で一度バウンドすると、
「グエッ!」
陰キャラ三人組の一番マシな男の、横っ腹に命中した……。そして、その場にコロンと落ちると、プシューという噴出音とともに、白い煙を力強く吹き出す。間近で見ると、ホントにすごい勢いだ。
「ゴホゴホ」
しまった! 目が痛い!
間近でまともに催涙弾の噴出を見てしまい、私はすぐに目に痛みを感じた……。死にそうなほどの激痛ではないけど、涙が自然に流出する。もちろん、目は開けてなどいられず、バランス感覚を失って倒れそうだ……。