正常な世界にて
「この場から離れなさい! 今すぐ立ち去りなさい!」
そこの交差点に、盾や警棒を手にした機動隊が現れた。横一列に並び前進し、集まる暴徒たちへ解散を促す。
「うるせえ! マジでやんのか!」
「その数でなんとかなると思ってんの!」
暴徒たちは口々に叫び、その場に留まり続ける。機動隊は盾を前面に掲げ、前進し続ける。お互い引く気はない。
「ああ、元通りの社会に逆戻りかあ……」
陰キャラ三人組の誰かが呟いた。こいつらもこいつらで、何か悪事をやってきたのかな? 略奪に便乗して、カードゲーム屋でいくつか盗んできたんだろうね。
機動隊と暴徒たち双方が、正面から衝突する。警棒が振り回され、殴られた暴徒は悲鳴を上げる。また、透明な盾による壁が、暴徒たちを後ろへ押し退ける。機動隊が、暴徒たちをどこまで交代させるつもりなのかはわからないけど、傍目から見ると、警察側の勝利が時間の問題に思えた。
だがしかし、暴徒たちはこのまま鎮圧されるつもりはないらしい。投石が始まったかと思うと、火炎瓶まで飛び始めたのだ。外国の暴動にしか見えない。
数個の火炎瓶が、薄暗い夕暮れの空を、赤い尾を引きながら飛んでいき、機動隊員の頭や道路で割れる。そして、火の玉がぶわっと大きく膨らんだ。
「熱っ! 熱い熱い熱い!」
上半身を炎に包まれた機動隊員が、その場でジタバタと跳ね続ける。しかし、引火したガソリンを思いきり被っているため、その炎はなかなか勢いを弱めない。仲間の機動隊員たちは、脱いだ上着で炎で覆ったり、消火器を持ってきたりしている。まさか、この時代に火炎瓶まで飛んでくるとは思っていなかったようだ。
私は少し離れた場所から、衝突や火ダルマ人間を見ていたわけだけど、熱気と緊迫感が強烈に伝わってくる。とはいえ、長く見ていたい光景ではない。今は包まれた炎で隠れてグロテスクじゃないけど、後でグロテスクな焦げを見ることになるからだ……。酷い火傷の画像をネットで見たことがあり、人間の焦げが、赤色と黒色が細かく入り交じった不快なものなのは知っている。
「うおおおお〜〜〜!」
暴徒たちが雄叫びをあげ、機動隊を押し返し始めた。機動隊が、燃える仲間の介抱に当たっている隙を突く形だった。卑怯な流れだけど、これはスポーツではない。暴動には、ルールなど存在しえないのだ。機動隊の陣形が崩れ始める。奪われた警棒で逆に殴られる者もいた。