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正常な世界にて

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「こいつ、こんなに溜めこんでやがった!」
駅のホームから、育ちが悪そうな男の声が聞こえてきた。何かを床にぶちまける音もする。
「欲張ったせいだな」
「まったくだ」
どうやら、二人組の強盗がホームで仕事中らしい。
 元々血の気の荒い連中が、リセットによる混乱に乗じて、暴徒と化しているのだ。また、貧乏に苦しんだ人が、火事場泥棒的な行動に走っているんだろうね。
 特に何も持っていないとはいえ、私はか弱い女子高生だ。自分が美少女だとは思ってないけど、「妥協」した男にレイプされる恐れはあるはずだ……。

 幸い、名古屋市営地下鉄東山線には、すべての駅にホームドアが設置済みだ。出入口部分とかの部分は透明だけど、腰までの壁になっている部分が多い。ホームからの角度や透明部分にさえ気をつけていれば、かがまずにそのまま歩いても見えない。しかし、用心にこした事は無い。私の足取りはゆっくりになった。
「ホントにサツが来ないな」
「でも復活するかもしれない。名古屋市の連中が国を作るんだと」
「へぇ、あの市長がリーダーをやるって? 知事と仲悪いままだろ?」
「まあ簡単な話ではないな」
聞き耳を立てつつ、私は駅の線路を慎重に進む。時々気になって、後ろを振り返る。大丈夫、電車は来ない。
 話の続きや他の話が気になったけど、二人組の強盗はホームから去ってしまった。階段を上る音ともに、地上からのサイレンがいくつも聞こえてきた。地上はかなり混乱しているみたいだ。この地下鉄の線路を歩くほうが、まだ安全らしいね。
 新栄町駅を過ぎると、今度は栄駅の明かりが、線路の先に見えてきた。栄駅のほうが断然大きい駅だから、不安が大きくなってくる。その駅で地上に上がるわけだから、ホーム上に登るしかないのだ……。


「逃げようとすんな、コラ!」
「おい、持ってるもんを俺によこせ!」
「殺されてえか!」
線路の先に、栄駅の光が見えてきたんだけど、怒声や罵声といった大声が同時に聞こえてきた。間違いなく、栄駅はカオスな状況に陥っている。名古屋有数の繁華街を擁する駅なのだから、治安が普段よりも悪くなっている事は、高校生の私でも予想できたのだ……。
 正直近寄りたくないけど、ここで歩みを止めても仕方がない。他の地下鉄駅も、多かれ少なかれ暴徒はいるだろうし、戻っていたら余計な時間を消費してしまう。今日の正午にリセットが起きてから今までの状況の推移を考えると、時間が経てば経つほど、状況が悪化するのは間違いない……。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん