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正常な世界にて

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 顔を上げると、電車内は薄暗くなっていて、焦げ臭い煙が漂っている事がわかった。中吊り広告の紙が燃え続けている。少し離れた座席では火がくすぶっていた。火事が起こる。このままここにいちゃ、もっと危険だ。
 私は、ドアが外れ飛んでいる左側の乗降口へ向かう。爆風で体の感覚がおかしくなっているらしく、乗降口の手前で転んでしまった……。こんな時でも恥ずかしさが湧き、いつもの調子で周囲をチラ見する。
 自動小銃の男が力尽きた様子で倒れていた。両目と口を開けたままだったので、思わずぞっとする私。
 乗客は車イスの男性も含め、半分が体を震わせ、半分が微動だにしないという状況だ。人として、ここは救護に当たるべきなんだろうけど、心身ともにその余裕は無い……。悪いけどね。
 まあ、前方や後方の車両は、たいした被害が出ていないだろうから、そこの乗客がなんとかしてくれるだろう。

 私は起き上がると、乗降口から飛び降りた。降りた所は、電車の左側だから、向こうからやって来た電車に轢かれる心配はない。
 やっぱり気になり、乗降口のほうを一度振り返る。チラシを燃やす火が見えた。ポケットからハンカチを取り出し、口を覆う。一酸化炭素中毒で、コロリと倒れたくはないからね。
 そして、私は栄駅のほうへ駆けだした。感覚が徐々に戻ってくるのを感じる。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん