正常な世界にて
「覚悟!」
突然、後方の車両から大声がした。そして、私が声がした方向へ顔を向けたその瞬間、拳銃の発砲音が3回連続して響く。またもやいきなりの発砲だ。私の耳や感覚は、もはや慣れつつある……。
「ううっ」
発砲されたのは、死体を調べている最中のあの男だ。お腹を押さえながら、体を前屈みに傾ける。片手に持つ自動小銃は、今にも床にも落下しそうだ。
そこへ、後方車両から若い女がやってきた。両手にはピストルが構えられている。第二十一特別支援隊の仲間だろうか?
「勝利確実!」
女はそう言った。そして、とどめをさすべく、ピストルを男の頭へ向ける。どうやら、この場はいろいろな立場の組織の人たちが集結していたらしいね……。
「そうはいくか!」
男は激痛に汗を浮かべつつ、自動小銃を女に向け、引き金をぎゅっと引いた。
自動小銃は銃弾をひたすら放ち続ける。適当な狙いで乱暴に発射された無数の銃弾たちは、女の全身をズバズバと貫いていった。女は断末魔の声を上げる間もなく、鮮血や肉片を派手にぶちまけながら、仰向けに倒れ込む。
だけど、銃弾たちが向かう先は、その女だけじゃなかった。自動小銃を握る男の腕は弱々しく、銃口の先が、上の天井へそれてしまったのだ……。
天井には蛍光灯。そして、溜まった水素。……今日は本当にメチャクチャな日だ。
銃弾で蛍光灯が割れた次の瞬間、水素がボッと引火した。天井は炎に激しく包まれ、水素爆発による爆風が、窓ガラスを粉々に割り、ドアを車外へ吹き飛ばした。
私は身をかがめた。熱風が頭にかかり、爆風が体を座席に押しつける。無意識に耳を押さえていたけど、それでも耳に痛みが走った。
電車が急ブレーキをかけるうるさい音がする。急停止による強い衝撃で、体が横に倒れ、座席に寝転がる形になった。しかし、今は恥ずかしいどころじゃない。
……電車が完全に停止し、熱風は止んだ。しかし、空気から熱を少し感じる。