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正常な世界にて

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 タタタタタタタタタッ!!

 突然また銃声が鳴り始めた。今度火を噴き始めたのは、兵士の軽機関銃ではない。
 前方の車両から、何発もの銃弾が飛んでくる。それらの銃弾は、二人の兵士の体に穴を開けていった。少なくとも、彼ら第二十一特別支援隊の人間が撃っているわけではなさそうだ。兵士二人は、床に倒れこみ、そのまま動かなくなる。
 この発砲で、水素爆発が起こるんじゃないかと思ったけど、幸いそれは起きずに済んだ。水素が充満している部分が、今のところこの車両の天井付近だからだろうね。
 一通りの銃撃が終わった時、無謀な私はそっと、前方車両のほうを覗いてみる。

 若い男が、SFチックな見た目の自動小銃を構え、伏せ撃ちの姿勢を取っていた。今はマガジンの交換をしている。両脇にある女子大生二人の死体を邪魔くさそうだった。
 男は、第二十一特別支援隊が着ているような軍服ではなくて、私服姿だった。もしかすると、最近出没しているレジスタンスの人なのかな? 高山さんたち側である隊の兵士を、いきなり撃つぐらいなんだからね。
 だけど、油断はできない。リセットによる混乱に乗じた暴徒という事も、十分にありえる。この後、あの男に銃を突きつけられ、金目の物を要求されるかもしれない……。
 私が身構えていると、その男がこの車両へ歩いてやってきた。自動小銃を構えている。自衛隊制式の物とは形状が異なるそれは、第一印象と同じくSFチックだった。ただ、カッコ悪く浮くほどではない。
「…………」
男は、私や他の乗客には目もくれず、倒れた兵士のほうへ歩いていく。素人の動きではなく、訓練されたスムーズな動きだった。ハリウッド映画で見かけるような、その道のプロにしか見えない……。

 そして、男は倒れた二人の兵士を調べ始める。血溜まりが広がり始めているのが、ここからでもよく見えた。きっと、どんな敵に撃たれたのかもよくわからないまま、戦死したんだろうね……。
 それはともかく、男は第二十一特別支援隊の兵士二人を殺したのだ。リセットにより、自衛隊や日本政府はもはや存在しない。だけど、こんな事をして、何事も起きないとは限らないのだ……。
 私や他の乗客は、静かに男の行動を見守る。もしくは、寝たフリをするか、スマホを見るフリするかだ。電車も気のせいか、素知らぬ様子で走り続けている。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん