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正常な世界にて

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 ひたすら連続して放たれる銃弾が、狭い電車内を我が物顔で飛んでいく。座っていた私は、うるさい銃声に耳を押さえながら、頭を下げた。銃撃の場面は何度も経験してしまっているけど、こんな狭い場所では初めてだ……。流れ弾や跳弾に当たって死にたくない。
 走っていた二人の女子大生は、銃弾にビシビシ貫かれながら、隣りの前方車両の床に倒れ込む。
「う〜!」
対象のダウンを確認した兵士は、銃撃を止め、短い唸り声を上げた。私以外の乗客は、悲鳴は上げないながらも、この狭い電車内での銃撃にヒヤヒヤした気持ちだった。
 女子大生二人は、両方とも体のあちこちが裂け、臓物や脳が吹き出ていた……。無論、鮮血は電車内中に飛び散っている。幸い、出血の大部分は隣りの車両で行なわれたので、私の服に血がついてしまう悲劇は避けられた。
 しかし、放たれたすべての銃弾が、女子大生二人分の体に残ったわけではない。それらの銃弾は流れ弾として、窓を割り、吊り革を粉砕し、壁に穴を開けた。幸いな事に、そこの女子大生二人以外に銃撃された乗客はいなかった。
 無数の空薬莢が床をコロコロと転がっていく。どうやら、電車は停止することなく、このまま走り続けるらしい。電車内で銃撃なんてあれば、通常であれば非常停止のはずだけど、もうそんな常識も無効みたいだね。兵士二人は、何事も起きていないかの如く、検査を再開する。こんな出来事はよくある事だといった感じで、私自身もそう感じ始めていた。

 プシューーー!

 ところが、そんな噴出音が電車内で響き始めた途端、状況はまた緊迫したものに戻る。私を含め全員が、その音の方向を見た。
 あの最新式の車イスの下から、燃料の水素が勢いよく吹き出ているのだ……。床で跳ねた銃弾が、車イス下部にある水素タンクに穴を開けてしまっていた。
 水素は、穴からドンドン噴き出ていく。どんなタンクなのかは、よく見えないけど、少なくとも車イスを一日動かせる量の水素がたくさん詰まっているだろうね。ただ、水素は無色透明だから、どれだけの量が出ているかはわからない。
 ……だけど、水素は軽い気体だ。既に車内の天井辺りには、けっこうな量の水素が溜まっている事だろう。「水素爆発」という言葉が浮かび、私の頭にサイレンが鳴る……。これは危険だ。
 車イスに乗る男性は、すぐ横で噴き出る水素に、身動きが取れない様子だった。とはいえ、私たちも下手に身動きが取れない。水素は静電気でも着火し、爆発しちゃうのだ……。さすがに、水素が危険な物であることは、兵士たちも知っているらしく、どうしたものかと、互いに顔を見合わせている。
 非常ボタンを押して、電車を止めるべきだろうか?

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん