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正常な世界にて

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 途中の駅で、車イスの中年男性が乗ってきた。その車イスに、私の目は好奇心で引かれる。
 最新型の車イスで、水素燃料で動く物だ。水素によるパワフルなパワーを誇り、電車の乗降口とかのちょっとした段差なら、自力で上がれるそうだ。現に今も、駅員の力を借りずに、車イスによる力だけで乗車してきた。これなら、車イスの乗り降りのせいで、電車が遅延することも起きないね。
 車イスが専用スペースに停まり、電車のドアとホームドアが閉まり始める。
「危ない!」
閉まる直前に滑り込みセーフをかける形で、二人の若い女性が駆け込み乗車をしてきた……。自業自得とはいえ、ドアに挟まりかけたので危なかったよ。
 普段なら、ドアをもう一度開けてやる光景が見られるんだけど、この時はそのままだった。「駆け込み乗車するな」の車内放送すら流れなかった……。
「このまま行けるかな?」
「まだ油断しちゃダメだよ」
「名古屋駅でレンタカーを借りよう」
「そうだね。少しでも遠くへ行かないと」
女子大生らしい二人は、息切れを起こしながら、小声で話している。何があったのかは知らないけど、追われているようだ。面倒事に巻き込まれたくないので、私は気にしない風をキープする。
 私は、ポケットからスマホを取り出し、ネットブラウザを開く。しかしすぐに、ネット回線がダウンしている現状を改めて知っただけだった。電車でスマホを開くのは、今や万人の癖だね。こればっかりは、発達障害者も定型も無関係な癖だといえる。
 よく見ると、私みたいにスマホを手に取り、がっかりしている人がいる。……とはいえ、こんな状況だからか、私以外の乗客は少なかった。駅に向かうまでの道中で、買い出しの人で混雑しているかもと思っていたけど、杞憂だったみたいだね。

「けんさです! ごきょうりょくをおねがいします!」
後方車両から二人の自衛隊員がやってきた。腕章でわかるんだけど、例の特別支援隊の兵士たちだ。怪しい人間がいないかを探しているんだろう。とはいえ、警察の職務質問とは違い、片方の兵士は軽機関銃を構えている。とても拒否なんてできる雰囲気じゃない。
 こういう検査は、今回が初めてじゃなかった。時々だけど、街中に出れば、歩道などで検査を強制的に受けさせられる。私は幸い目撃していないけど、検査を嫌がって逃げ出した人が、「治安維持」のために蜂の巣された人もいるそうだ。なので、私は仕方なく毎回受けている。
 そして、兵士による検査が始まり、乗客たちは順番に、自分の身分を証明していく。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん