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正常な世界にて

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「はぁ、ただいま……」
部屋の外から、母の声がした。クタクタで疲れた口調だ。どうやら、私が知らぬ間に、買い物に出かけていたらしい。スマホに熱中していたせいで、全然気がつかなかった。
 母が深いため息をついたのが聞こえたので、私は部屋を出て、玄関へ向かう。玄関からキッチンまで、買った物を運ぶぐらいの手伝いはしないとね。
「すごく混んでいて大変だったわ……。買わなきゃいけない物の半分ぐらいしか、店に置いてなかったし」
膨らんだエコバッグを手渡しながら、母が言った。
「みんな鬼のような形相で、人をかきわけながら、買い物をしていたな。店員もクタクタだったよ」
両親の話によると、スーパーなどで買い出しの大騒動が起きているらしい。駐車場も行列、レジも行列で、食料品を中心に品切れが大発生しているようだ。
 おまけに、道路はどこも大渋滞で、交通事故があちこちで起きているとのことだ。しかし、110番も119番も全然繋がらないらしく、偶然パトカーで現場に居合わせた警察官二人が、交通整理に当たっているらしい。ただ、応急救護の知識を持った人たちが、怪我人の対処に当たっているそうだが、そちらは絶望的な状況みたいだ……。救急車のサイレンは聞こえてくるものの、自分たちの元へ向かってくれている気配では無いらしい。

「回線がパンクしていて、会社に繋がらないよ」
スマホを手にした父が言う。圏外にはなっていないものの、電話回線が大混雑しているみたいだ。先ほどのリセット発表の関係で、日本中が、いや世界中がパニック状態になっている。
「ダメだ。家の電話もダメだ……。そうだ、公衆電話だ!」
固定電話のほうもダメみたいだ。仕事馬鹿な父は、それでも諦めきれず、外の公衆電話を探しに出かけていった……。この辺りに、公衆電話なんてまだ残っていただろうか?
 だけどきっと、同じ事を考えた人たちがとっくに、公衆電話の前に行列をつくっているに違いない。なにしろ、買い占め騒動がもう起きているような非常事態だからだね。
 私は、7年前の春先に起きた東日本大震災を思い出した。まだ小学生の頃だったから記憶はやや薄いけど、大地震や原発事故で買い占めなどの騒動が起きていたのを覚えている。我が家も例外じゃなくて、洗面所の戸棚には今も、放射線対策としてガイガーカウンターと安定ヨウ素剤が保管されているぐらいだ。まあ、米や水の買い占めは、ぶっちゃけ正解だったけどね。
 それはさておき、今は連絡手段の維持が大事だ。だけどさすがに、無線機やトランシーバーまでは、我が家には無い。まあ、相手も持っていなければ、連絡は取れない物だが。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん