小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

正常な世界にて

INDEX|159ページ/381ページ|

次のページ前のページ
 


 強制収容されない人々からの不満や反発に対しても、高山さんの組織は苦労しているらしい。彼女の話によると、一部の発達障害者からなるグループが、集団脱走の手引きをしているらしい。もちろん、彼女はそれを話した際、「まさか、森村さんや坂本君は、そんなことには関わっていないよね?」という脅し文句は忘れなかった……。とはいえ、その話を聞き、私は少しほっとした。すべての発達障害者が、IQ検査や強制収容に賛同しているわけではないと知ったからね。少し意味が違うかもしれないけど、『レジスタンス』という言葉には、ロマンを感じる。
 ただ今の私に、できることはもはや無い。高山さんに監視されている可能性が高いし、支援する術も持っているわけでもない。心の中で密かに、抵抗する発達障害者を支持することにした。いくら高山さんでも、心の中のことを立証するのは不可能だろう。

 私の思い違いかもしれないけど、つい最近こんな出来事があった。梅雨のため、雨が何日もしぶとく降り続いていた。私は高校からの帰宅中だ。
 歩道の向こう側から、二人の若い男女が走ってきた。二人とも、病院の入院患者が着るような服装だ。本来清潔であるはずの服には、泥汚れがつきまくっている。一瞬で訳ありだとわかった……。きっと、強制収容所からの脱走者だったはずだ。
 彼らを見たとき、私はまた厄介な出来事に巻き込まれてしまったと覚悟した。ところが、彼らは私に助けを求めることもなく、そのまま後方へ走り去る。私は一度チラリと振り返り、彼らの後ろ姿を見届ける。必死の逃げ様子だった。警察や特別支援隊に追われているんだろう。
 彼らの行く末を考えながら、私はそのまま歩いた。少しすると、道路を赤色灯を光らせたパトカーが通り過ぎていくのが見えた。彼らも必死になって、脱走者を捜索しているんだろうね。
 あの脱走者を、何か助けてあげられたかもしれない。ささいなことだけど、人通りが少ない小道を教えてあげるといったこととかだ。さすがに、替えの服をプレゼントしたり、家で匿うということは無理だけどね。
 でも、あのときは事なかれ主義で、そのままスルーした。彼らの行く末を考えていただけだ。厄介ごとに巻き込まれるのは嫌だし、彼らを助けたせいで、強制収容所送りになるのは絶対嫌だった。
 しかし、現実には、そんなハイリスクを冒してまで、自分が正しいと思ったことを、実行に移している人々がいるのだ。もしかすると彼らも、そんな人々に保護されたかもしれない。
 高山さんたち組織に抵抗する、それだけの勇気を持つことが、私にできるだろうか? 心の中で決意することはできても、いざ実行に移せるかな?

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん