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正常な世界にて

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 世間や政治家は、その具体策に対して積極的だった……。いわゆる「反障害者デモ」を封じ込める法律が、あのデモから2週間以内に制定されたのだ。他の法律の審議は、長々とかかっているのにだ。

 ふと気になり、自宅の新聞を読み込んでみた。すると、そんな法律が、世界各地でドンドンできあがっている事を知った。
 制定された法律により、日本各地だけでなく、世界中で人々が次々に逮捕されていく。「人権保護」の名の元にだ……。
 私個人としては、反障害者デモの取り締まりは結構だけど、障害者の支援をまず充実させてほしいという考えだ。デモをやった人が何人逮捕されようと、私の苦労が減るわけではない。
 ところが、こういう私の個人的な考えすらも、その法律は否定していた。当事者なので逮捕まではされないものの、違法な考えというわけだ……。世知辛いね。

 例のIQ検査の法律は、人々が次々に逮捕される状況で、制定された。反対する人もいたが、そんな人はすぐに逮捕された……。
 制定で調子に乗ったらしく、IQ検査の結果によっては、強制入院もさせられるという法律まで制定されてしまった。これで検査する側、つまり強者の側が、誰でも都合よく、表社会から消し去る事ができるようになったわけだ。強制入院という名の強制収容だね。発達障害者の私は、大目に見てもらえるとしても、怖い世の中になってしまった……。
「IQ検査の結果により、大勢の方々が、病院へ向かいます」
テレビのニュースがそう伝えていた。映像には、ダウン症らしき風貌の自衛官たちが、銃を構える姿が映っている。『第二十一特別支援隊』という特別に編成された部隊だと、ニュースは伝えた。法律が制定されて間もないのに、ずいぶんと手際がいい話だなと、私は思った。制定を見越して、すでに準備していたんだろうね。

 ある日、坂本君と名駅の金時計の辺りを歩いていたときの事。4人の警官が、男を取り押さえていた。男はうつ伏せにさせられ、床で苦しそうにしている。今回は直接巻き込まれたわけじゃないけど、その光景は記憶に残っている。
 どんな問題発言をしたのかは知らないけど、金時計の前で、反障害者的な事を突然叫んだみたいだ。金時計の周りには大勢の人がいるし、警戒中の警官もよく見かける。捕まる覚悟を決めて、主張したんだろうね。
 男は、警官に無理やり立ち上がらせられ、パトカーへ連行されていく。私や坂本君を含め、その場にいた人々は、沈黙を保っていた。そのうちの何割かは、男の主張に同意していたかもしれないね。だけど、同意などしたら、たちまち逮捕されるだろう……。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん