正常な世界にて
【第18章】
『初詣で賑わう神社にいた大勢の人々に、大型トラックが突っ込みました。運転していた男は、意味不明な事を話しているとの事です』
今は高校の昼休み。私は教室で、スマホでテレビニュースを観ている。この事件も、高山さん絡みなのかな? そうじゃないとしても、罰当たりなニュースには違いない。
『次のニュースです。先日、スキー場へ向かっていたバスが、雪崩に巻き込まれ、崖下に転落炎上した事故についてです』
これはもう十分に知っているニュースだ。なにしろ、他人事じゃなくて、身近に起きた事だからね。
教室のあちこちの机の上を見れば、それはわかる。数人の机の上に、花瓶にさした花が置いてある。実は、クラスメート数人が、そのバスに乗っていて、全員が転落の衝撃か炎上によって死んだのだ。世間的には、不幸な事故死扱いだけど、これも高山さん絡みかもしれない……。
とはいえ、事件性の事など、ニュースは全然触れない。自然災害に巻き込まれた、不幸極まりない事故としてだ。一通りのニュースが終われば、次のニュースへさっさと移る……。
『東京都内にあるB型作業所にて、放火とみられる火災が発生しました。焼け跡から二人の遺体が発見されたものの、まだ5人と連絡が取れておらず、警察と消防が捜索に当たっています。また、警察は、現場近くにいた女が、何らかの事情を知っているとみて、任意で話を聞いているとの事です』
このニュースも他人事ではない。ネット情報だけど、この女はダウン症に対する偏見を持っているそうだ。私はダウン症じゃないけど、その人からすると発達障害者も同じなのかな? 他人事じゃない上に、怖い話だね……。
「それは想定内の事だから大丈夫」
いつの間にか、高山さんがすぐ横に立っていた。こんなときにビックリさせないでほしい。
「それぐらいの反動は想定できていたから、気にしなくていいよ」
そう言うと、彼女は歩き去る。平然とした口調だった。
高山さんは高山さんで、今は大変な時期だ。何しろ、ご両親の死体が、岐阜県の山中で見つかったのだから。ガードレールの無い道路から、車ごと転落した状態で、死後しばらく経ったご両親が発見されたという事だ。それもついおとといのニュースだ。
もちろん、私は真相を知っている身だ。おそらく、彼女やそのお仲間さんが、処理が済んだご両親の遺体を車に乗せて、道路から転落させたのだろう。
平然とした彼女の姿を見れば、これが「事故」ではないと、すぐに疑う事だろう。だが、疑うだけでそれ以上の行動を起こす事は、簡単な事ではない。私や坂本君が、真相を警察に打ち明けたとしても、私や坂本君は口封じで殺されるに違いない……。