正常な世界にて
「……それで、森村さんと坂本君。あなたたちは、これからどう振る舞ってくれる? 私や組織としては、何も知らない発達障害者二人として、おとなしく過ごしてくれれば、これからも生きられるよ?」
これは最終通告だ。脅しまで伝わってくる。
もし拒否すれば、ケーキカットに使った包丁でも使って、私や坂本君を血祭りにあげるはず。死後は考えたくない。
そう、できる返答は一つだけ……。
「わかった。その、おとなしく過ごすよ」
「ぼくも同じ」
私と坂本君は、高山さんにそう言った。彼女はまぎれもなく、世の中を変わった方向へ導く組織の一員だ。服従を誓ったわけではないけど、それに近い。
とはいえ、私の中には疑問がいくつも溜まっている。
「だけど、ご両親はいったいどうして」
「それもじきにわかるから、ね?」
高山さんが、私の質問を遮るように言った。これ以上尋ねたら、怒られそうだ。
「人類の多様性を守る事が、私たち組織の目的なんだよ。暴れる事が目的じゃないからね」
私の疑問をさっさと解消させたいのか、彼女はペラペラと話し始めた。危険を覚悟の上、ある程度話してくれる気らしい。
「やらなかったらやられるだけ。正当防衛として、私たちは行動しているんだよ」
ひょっとすると、私や坂本君が納得の糧にできるように、話してくれているのかもしれない。どんな大義や正義があるのかを知ることで、私と坂本君が、後で考えを曲げないようにと考えているのかも。
まあそれでも、彼女自身の口から、組織の目的や正当化について聞けたのは収穫だ。今は耳を傾けよう。
「これからの世の中の流れに、森村さんと坂本君はうまく乗れるはずだから、期待もしちゃっていいんだよ」
彼女はそう締めくくった。とっても納得のご様子……。
「さあ、そろそろパーティに戻らないとね」
高山さんはそう言うと、ベッドから立ち上がった。床下からかすかに、ダイニングルームの喧騒が聞こえてくる。盛り上がりはまだ残っているらしい。
それでも、そろそろ戻らないとね。誰かが二階に上がってきて、ここやご両親の部屋へ入ってしまうかもしれない……。
「パーティ最後にお楽しみとしてクジ引きゲームするんだけど、手伝ってくれる?」
その手伝いなら大丈夫だ。ご両親の死体隠しを手伝われるよりはマシだから……。