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正常な世界にて

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「その理由は正しいけど、時の権力者のためにでもあるんだよ」
「時の、権力者……?」
高山さんの言葉に、きょとんとする私。支配された人と権力者は雲泥の差があり、その程度ならわかっている。
「もし大きな厄介事、クーデターなどが起きた際に、権力者側が交渉ツールとして使うの。協力するから刑法39条で免責してくれ、という具合にね」
高山さんが言った。顔と口調は真剣そのもの。
「そんなのみんな納得しないよ!」
私は思わずそう言った。
「ただでさえうるさい大衆が、そんな展開を許すわけないもんな」
皮肉まじりにそう言った坂本君。
 苦笑いを一瞬浮かべた後、真剣な顔にたちまち戻る高山さん。
「だから、下地をあらかじめ用意しておくんだよ。普段から刑法39条をしっかり機能させておき、いざという局面に備えるというわけ」
彼女の話は信じづらいけど、嘘や冗談を言ってるわけじゃない。
 現状を考えれば、その下地の形成は着実に進んでいる。弱者と強者の両方を保護するための法律は聞こえがよく、変化なんて望めない。
 ……ああ、これ以上何も言えないし、言う必要もない。

「なるほどね。それでさ、ボクらに何してほしいの?」
坂本君が言った。彼女的には、ここからが本題だと思う。
「私たちのジャマになるような事を、控えてくれればいいだけだよ。今後、あくまで一般人として振る舞ってくれれば、悪いようにはしないから」
高山さんは、ゆっくりとした口調でそう言った。彼女の体面上も、とても大事なんだろうね。
「そう言われても、正当防衛ぐらいするよ? 命あっての物種だからさ」
坂本君が言った。私も同意。おとなしく命を頂戴されるなんてごめんだね。
「……大丈夫よ。邪魔さえしなければ、あなたたちは安全だから」
それはつまり、今後も周囲で惨劇が頻発するというわけだ。いくら私たちが安全とはいえ、心豊かな日々は送れない。
「ただ、もし私の言う事を聞かないなら、ご家族も含め、安全じゃなくなるからね?」
高山さんはそう言うと、人差し指でご両親の部屋を指差した……。脳内で死臭と死に様が再現され、不快感が湧き上がる。
 まあそうなるよね。王道の流れは裏切らない。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん