正常な世界にて
「全然正しくなんかないよ! いくらジャマな人だからって、殺すのはやり過ぎだよ!」
私は大声でそう言ってやった。
「フフフッ」
高山さんが笑った。私の主張が、世間一般の反応そのものだった事がおかしいらしい。
「この様子だと、私たちをきちんと評価できないのは当然だね」
呆れ顔の彼女。私たちをバカにすると同時に、自らの努力不足を嘆くよう。
彼女は私たちに、理解と賛同を求めてる?
「……あなたたち、組織内の有名人よ? 厄介者ランキング二十位以内に入っちゃってる」
高山さんが言った。この場を使い、本音をぶっちゃける気らしい。私が聞きたかった事まで聞けるならありがたいね。
「なんだか嬉しいね」
つい軽口を叩いてしまった私。まるで坂本君。
「正しい事をしているのになぜ邪魔するんだと、みんな疑問に思いながら解決したがってるよ? いつでも簡単にできるから、今は誰もやる気ないけど」
彼女は言った。遠回しじゃなく、わかりやすい脅し……。
「私だって、正しいと思う事をしてるだけだって!」
言い返した私。恐怖を打ち消したい。
「ボクもそう思ってるよ」
珍しく助け舟を出してくれた坂本君。恐怖心が多少和らいだ。
「確かに、私たちがしている事は、世間一般からすると間違っているかもしれない」
高山さんは水を一口飲む。さすがの彼女も、少しは緊張しているんだろう。
「でも時代や状況が変われば、何でも正しくなるんだよ?」
いや、まったく緊張は見られない。気分や口調を抑えるために飲んだだけ……。
「いくらなんでも、高山さんたちの事が正しい事になんかならないよ」
「百年も経てば、社会の常識や道徳なんて変わってるものよ? つい百年前まで、民主主義の国は少数派だったけど、今は多数派。逆に独裁制なんて主張したら、それこそキチガイ扱いじゃない?」
「…………」
世界史で学んだ出来事を思い出す私。特に近現代の部分を。
ここ二百年ほどで、日本や世界の体制は大きく変わり続けている。つまり高山さんの主張が、百年後に正しいと理解される可能性もありえる……。
ただ、この場でそれを認めるのはやめておく。