正常な世界にて
【第17章】
私と坂本君は高山さんに続き、彼女の部屋へ入った。クリスマスパーティの喧騒が微かに聞こえる。まだまだ賑わっているらしい。
ダイニングルームまで逃げる事ぐらい、やろうと思えば簡単にできたはず。けど遅かれ早かれ、彼女やお仲間に殺されちゃうのは確実だ。逃げ切れない……。
高山さんの部屋は十畳以上ある洋室で、内装や家具は高級そうな物ばかりだ。磨き抜かれたフローリング床に、手入れされたシルクの絨毯。立ちこめる空気さえ、高級品に思わせる。
それから勉強机は、小学生が使うような代物じゃなく、社会人向けとして通用するデザインのデスクだ。私の机と同じ木製とは思えない。
彼女はその机のイスを私に勧め、自身はベッドに腰を下ろした。そのベッドの寝心地もさぞ気持ちよく、毎晩良い夢を見れるだろうね。
「はい、どうぞ」
彼女はグラスに水を注ぎ、私と坂本君に手渡した。部屋のミニ冷蔵庫内から取り出したミネラルウォーターだ。初めて見るブランド物のペットボトルで、成城石井やサポーレで並べられる代物。
「…………」
目の前でペットボトルを開栓してくれたとはいえ、毒か何かが入っているかもだ。緊張感で喉が渇いてるけど、そう考えると飲みづらい。
「ありがと」
ところが坂本君は躊躇することなく、水をゴクゴクと飲み始めた。彼は一気に飲み切ると、空のグラスを床に置き、その場であぐら座り。
……毒も何も入っていないようだ。
私も水を飲む。水道水との違いはわからないけど、とても飲みやすい水だ。たまに飲む程度なら買ってもいい。
私と坂本君が喉を潤すと、高山さんがわざとらしく咳払いする。さっそく大事な話に入りたいらしく、私は身構えた。ふと思えば、彼女とまともに話すのは久々だ。
「森村さんと坂本君が、いろいろ行動していた事は知っているよ」
高山さんが言った。ばれているのは怖いけど、それなら話が早い。
「私はただ、正しい事をしただけ」
私はそう言い返した。それは確かだ。
「ボクは森村に付いていっただけ」
坂本君が続けてそう言う。それも確かだけど余計。
「正しい事? それなら私も同じだよ」
高山さんは言った。明らかに本心からそう思ってる口調。悪意なんて微塵もない、清々しさがそこに……。